【おそ松さん】蝉時雨と畢り。

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ゆっくりと玄関のドアを開けて家を出る。

コツ、コツ、と低めのヒールが付いたパンプスの音がリズム良く鳴った。


ドアの鍵がちゃんと閉まっていることを確認すると、くるりと体を180度回転させて後ろを向く。

でも、そのまま私の体はその場で固まってしまった。




「……ぇ」




今、私の目の前に広がるこの光景がよくわからなくて、思わず小さな声が漏れる。


嫌というほど見慣れた制服姿で、彼が、家の前の道路に立っていて。

でもその姿はどこか少し違くて。


彼の色である、赤色がどこにもなかった。


……今日、会うなんて言ってなかった、よね？


彼はいつもと違い、半袖のYシャツの裾をきっちりとズボンの中に全て入れ、ボタンも首元の1つ下まで閉めている。

靴も運動靴ではなく、黒のローファーを履いていた。




「な、んで……」

「……俺も、一緒に行きたかったから」

「………」

「ダメ？」




今日がどんな日か、彼も私も嫌というほどわかってる。


彼と私だけの、誰にも言えない秘密事。

彼の兄弟も、可愛い幼なじみも、友達も、みんなみんな、知らないこと。


………ああ、その優しさがすごい痛いな、




「………いいよ」




今年は1人で行くつもりで。それで、そこでケリをつけてこようと思ってて。


全部、出来なくなっちゃったや。


小さく笑いながら答えれば、彼も同じように笑いかけてきた。


彼が何を考えているのか私にはさっぱりだけど、

今日はなんとなくわかった気がする。


花束と、黒い小さな鞄を持って彼の隣に並んだ。




「…いつもの制服の着方じゃないから、違和感がすごいね。」

「まぁな〜、こんな格好すんの入学式の時以来かもしんねぇ」

「それは酷い」

「だってこれダサくない？！」




「チョロ松みたいでぜってぇやだ！」とか言ってYシャツを引っ張りながら自分の今の格好を見る彼。

チョロ松くんに失礼じゃないかなそれ…


でも、毎年この日だけその格好をしてくれてるのを、その度嫌なのに最後まで着崩さないでいてくれてるのを、私は知ってるから。

小さく笑みが溢れた。


夏にお互い黒が多めな格好をしてるのは、周りからすればおかしいと思われるのだろうか。

将又、あの日なのかなと悟ったりするのだろうか。




「元気にしてっかなぁ〜」

「……してるよ。きっと。」

「…だよな」




「てか、してなきゃ困る！」と彼がちょっと強めに言うのに対し、少し笑いながら「うん、そうだね」と答えた。




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