ブライダルベールは枯れてしまいました

御幸せにファムファタル／１ ページ44

幸せとはなんだろうか。
例えば、君が私に笑いかける度に思わず頬を紅に染めてしまうような、そんな心臓に悪いものでも、幸せの一つとしてカウントされてしまうのだろうか。

＿＿いいや、否である。

根源はそこではない。
幸せとは、彼と私の間に発生するもの、謂わばプライスレス。
そんな幸せを記憶ごと根刮ぎごっそりと奪われたら、私は次の日から何を幸せと思い生きていくのだろう。まるで想像がつかないが、きっと、忘れてしまえばそれは日常になるはずだ。それが、とてつもなく怖い。





「忘愛症候群である可能性が高いです」


幸福とは、消耗品である





.






最近、物忘れが多いと彼に指摘され、病院に行ったらなんともふざけた病名を聞かされた。

なんでも、その病気は愛する人の記憶のみを剥がれるように忘れていくという。
人によって忘れていく過程は様々らしく、私の場合は遅効性…つまり一日ずつ忘れていき、最後には綺麗さっぱり消えてしまう。

彼が医者に治す方法を問い詰めていたが、一拍の間を置いた後、現代の医学ではどうにもならないと聞かされた。

然し、それは違うと思った。
きっと治す方法はあるはずだ、それを敢えて教えなかったのだろう。


「一緒に治す方法を探そう」


彼が言った。
こんな理不尽な病があるくらいだ、治す方法だって用意されて居る筈だと。






「神様だって、そこまで意地悪ではないだろうしなあ」

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