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声を出そうと息を吸った瞬間に、思わず噎せ返る。
鼻腔が、喉がびりびりと痺れ、息が苦しい。
「あれ、なるせくん?遅いよ!…って、Aちゃん?!大丈夫?」
呼吸が荒くなる私を見詰めたまま動かない彼を押し退けてその部屋から立ち去ろうとフラフラ立ち上がった時に、丁度トイレから戻ったまふさんが入ってきて、ふらつく私を受け止めた。
『っ、大丈夫です、…は、少し御手洗に、』
まふさんに触れられた部分ですら熱を帯びて身体が震える。
大丈夫、と呟きながらゆっくりと歩き、まふさんに連れられて御手洗の前へ。
「落ち着いたら帰っておいで」
まふさんはそう言って、私に錠剤をひとつ差し出しては個室に戻った。
その錠剤が “ 抑制剤 ” である事はぼうっとした頭でも理解ができる。
気付けば私の腕には、私の手荷物がぶら下がっていて、まふさんがくれたのだと思う。
個室に急いで入り、鞄の中に入れていたペットボトルの水で抑制剤を飲み込む。
即効性であれば数十分で効くはず、と私はトイレの個室に蹲った。
「…アンタ、何者?」
するはずのない声が聞こえ心臓が大きく跳ねる。
顔を上げるとそこに立っていたのはピンク髪の彼。
心做しか彼の頬も色付き、息が荒い。
『鍵、』
「何抜かしたこと言ってんの、掛かってなかったよ」
彼は私の腕を乱暴に引いて立たせると、そのまま項に顔を埋める。
『っ…は、?バカなの、』
ぐ、と近くなった匂いに一瞬視界が弾けた。
この目の前の人間を求めている そう本能は告げているが、理性は大きな警鈴を鳴らしていてひたすらに頭が痛い。
「俺は出かける前に必ず抑制剤を飲んでる。で、お前はさっきまふくんに抑制剤を貰って飲んでる。なのにこのフェロモン。言ってる意味分かるよな?αさんよ、」
分からないわけがないだろ。
そう答える前に私は相手の手を引いて、中に連れ込んでは手速い動きで確りと鍵を閉め、乱暴に壁へ追いやった。
『運命なんて、クソ喰らえ』
私の理性は、弾けて消えた。
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作者名:弥雲 | 作成日時:2021年9月24日 11時