行ってきます ページ31
兄さんの術は、言っていた通り秘伝の術程は難しくなかった。
だけど、兄さんのような威力はなかなか出なくて苦戦した。
焦らないで一つ一つやったおかげで、ついに威力も強くなり、覚えることができたのだ。
「やっぱりAは凄いな。これは俺より強くなる…いや、一族一強くなるかな。」
『やめてよ、兄さん。私はそんなに強くないわよ。』
「自分に自信を持っていいんだよ、A。お前は強い。心も体もね。
誰かを守りたいって思える奴は強い。
俺はそれを知ってるから。」
そう言って兄さんは笑う。
兄さんだって、私を守ろうとしてくれてたじゃん。だから、兄さんも強いんだよね。
「そうだ、A。お前に俺の大切な短刀をあげる。家の倉にある細長い漆箱の中に入ってるよ。大切に使ってな。」
『なんでそんな大切なもの…。そのまま仕舞ってれば傷もつかないよ?』
「いつでもお前と共にいる。
そういう意味を込めてね。それに、使われないで錆びるより、お前に使われた方がいい。
扇子みたいに、一族に伝わる短刀だ。だから、お前が受け継いでくれ。」
兄さんはそう言うと、私のことを静かに抱きしめた。
まるで、その感覚を忘れまいとするみたいに。ただ静かに強く。
私が抱きしめ返せば、兄さんは小さく声を出した。
「お前はもう、あっちに戻る時間だ。もう二度と、こんなに早くこっちに来るなよ。」
『そうなんだ……。分かった。最後まで頑張って生きるね。
でも、やっぱり兄さんといたかったよ……。
お別れは嫌だ。会えなくなるなんて、嫌だよ…。』
そう言うと、兄さんはより腕に力を込めて抱きしめてきた。
兄さんだって、嫌だったはずなんだ。ごめんね、兄さん。
「お別れじゃない。俺はお前の傍にずっといる。ずっと、ずーっと、母さん達とお前の傍にいる。
だから、会えなくなるんじゃなくて、ただ見えなくなるだけなんだ。
大丈夫、お別れじゃないよ。」
大丈夫、大丈夫。
そう繰り返しながら、私の背を撫でる。
やっぱり兄さんは優しくて、そんな所が大好きだ。
「それじゃ、そろそろ送らなきゃな。」
兄さんがそう言った瞬間に、私の体は消え始める。
気がついたら、母さん達もそこにいた。
「行ってらっしゃい、A。俺達は、いつでもお前の味方だ。頑張って、幸せに生きてくれ。」
『うん。それじゃあ、行ってきます!』
私が笑顔を見せた瞬間に、光が強くなる。
最後に見たのは、三人の優しい笑顔だった。
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ヒメ(プロフ) - いえいえ。とても面白いですよ! (2019年5月18日 21時) (レス) id: 78831db6d6 (このIDを非表示/違反報告)
藍夜(プロフ) - ヒメさん» コメントありがとうございます!楽しい、大好きと言っていただけるだけで、それが励みになります!本当にありがとうございます!これからも頑張りますね! (2019年5月1日 22時) (レス) id: 4ffe17b14f (このIDを非表示/違反報告)
藍夜(プロフ) - 雪華さん» メモしたのですが、こちらからではコメントを消せないみたいなので、そちらの方で消してもらってもよろしいですか?お手数お掛けしてしまいすいません。 (2019年5月1日 22時) (レス) id: 4ffe17b14f (このIDを非表示/違反報告)
ヒメ - すごく楽しいです!作ってもない私がいうのもなんですが、きっと作るのに苦労をしていると思います。私はこの小説が大好きなのでこれからも頑張ってください!!応援してます! (2019年5月1日 20時) (レス) id: 78831db6d6 (このIDを非表示/違反報告)
雪華 - 藍夜さん» 出来ました!タイトルは木の葉隠れの氷華族の少女です。パスワードはkonohaです。メモしたらコメント消して下さいね。 (2019年4月30日 23時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍夜 | 作成日時:2018年12月11日 20時