絵 空 事 【限定短編集】

＊ ページ20

それから暫くして、あのひとは死んだように眠った。
ブランケットを掛けて、冷たい手を握る。

微睡みの中で、冬の終わりを待ち侘びて





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シャーロック・ホームズは、アイリーン・アドナーをあのひとと呼ぶ。
敬意を込めて。


結局、会えたのだろうか。
どうしても、会えなかったとしか思えないのだ。
愛し合っているからこそ、神は許さない。
それこそ、織姫と彦星なんて会えていないじゃないか。



さぁ、今日もまた始まる。
木洩れ日と共に、馬鹿げた愛に狂おう。


目を開ければいつの間にかまた冷たいシーツの上で一人、取り残されていた。
いつもより心地の良い目覚め。
心なしか、早く起きたと思う。



ドアを挟んで、リビングの方から何やらいい香りがする。
軽い調子で鳴る足音に耳を傾けて、ぼんやりと夜を想った。


あぁ、朝が来なければ
貴方と別れることもないのに。

おはよう、おはよう。
その裏に隠された意味を、貴方は知っている。
知っているから、貴方は笑いかける。

おはよう。その言葉で私を呪い続ける。



静かにドアが開く。
エプロンを着けたあのひとは、柔く笑った。
なんか、新婚さんみたいね。
少しくらい、夢を見たっていいじゃない



あぁ、朝が来た。

おはようございますは、何と訳す？
どうすれば私、上手く笑えるの





「おはよ」





貴方は、ごめんと笑う。





「おはよう」





ねぇ。
さよなら、なんてどうでしょう

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