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実家を出た後、電車を乗り継いで何故か渋谷に来ていた。

目に付く大きな電光掲示板に、今では一躍人気モデルになった涼太が、悪童も裸足で逃げ出すような綺麗な笑みを湛えて映っていた。


旧友の活躍とは嬉しいもので、写真を撮ってタイムラインに上げれば相応の反応が返ってくる。

本人無しに交わされる会話に苦笑しつつ、どうして来てしまったのかと後悔した。
暑いし、人は多いし。目立つ赤髪のせいで、チラチラと見られるし。


特に行く宛もないのに、スクランブル交差点を渡る。



少し歩いて、入った雑貨屋は僕に似合わないような、可愛らしいお店だった。
目に入ったペアのマグカップを手に取り、レジへと足を運ぶ。


一つだけでいい筈なのに。ね。





「彼女さんとお使いになられるんですか?」





冗談めかして言われた言葉に、どう返していいのかわからなくなって。

使う、使ってくれるだろうか。
いや、きっと。
あの食器棚の中にずっと置かれたままだろう。
一回も、使わない。





「はい」





誤魔化すように淡く微笑んだ。





.





.





あの後家に帰って、それまでの記憶がない。
目が覚めたのは、ソファーの上。


上半身だけ起こすと、無理な体制で眠っていたせいか体の節々が痛い。
しまった、明日から普通に仕事だ。

何も考えずにうたた寝してしまった数時間前の自分を呪いつつ、今日買ったマグカップを洗おうと荷物を探した。



一人で夜を迎え、朝を待つ。
三年前の、あの日から。


頭が痛くて、こめかみを押さえた時。
無機質な部屋に、無機質な音が響いた。


こんな時間に誰だ、と。
そんなことを考える暇はなくて。
走るようにして鍵を開けたのは、きっと。



一人で迎える夜が寂しかったからなのか。

あの温もりが、忘れられなかったからか。





「ただいま」





勢いよくドアを開けると、彼女がいた。
僕の、A。



強く抱き締めた時に感じた冷たさは、冬のせいにした。



暑い?夏?
どうして、そんな馬鹿なことを思ったのか。
目が覚めた時から、この部屋は暖かかった。



外は雪が降っていて、寒さからか彼女の頬は赤くなっている。
見ていられなくて、部屋の中に引き入れた。



嬉しさと、何故か哀しさと。
気持ちが入り混ざって、泣きそうになって、笑ってしまう。





「おかえり、A」





深夜0時の事だった。

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設定タグ:黒子のバスケ , 赤司征十郎   
作品ジャンル:アニメ
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雨紅(プロフ) - 何度もコメント失礼します。本当に何回読んでも泣いてしまいます。人間の内面を抉るような文章の書き方、全てに感動しました。繰り返し読んでいます。ありがとうございました。 (2015年12月7日 0時) (レス) id: 85987802b2 (このIDを非表示/違反報告)
緋莉(プロフ) - 感動と切なさで胸が一杯です。。素敵な小説をありがとうございました!! (2015年8月23日 21時) (レス) id: 758bbf0526 (このIDを非表示/違反報告)
悪童 - 赤司様がいいです!!! (2015年7月20日 20時) (レス) id: 36a059792c (このIDを非表示/違反報告)
水城(プロフ) - 赤司様で!!! (2015年5月13日 23時) (レス) id: 4984122abc (このIDを非表示/違反報告)
雨紅(プロフ) - 赤司くんがいいです!! (2015年5月13日 19時) (レス) id: 4a5e53c7aa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綵架 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ayakamakar1/  
作成日時:2015年4月25日 18時

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