Statice ⇔ 01 ページ2
いつの間にか蝉の鳴く季節になっていて、溜息を吐いた。
楽しかったあの頃には戻れない、感傷もそこそこにデスクに向かう。
静かな部屋に響く、キーボードを打つ音はあまり好きではない。
聞けば聞く程疲れる気がしてならないからだ。
最後の一行を打ち終えて、保存。
立ち上がって、時間を確認して、要りもしない決意を固めて。
よし、一人で呟くと部屋を出て、靴を履いた。
これから起こることなんて、わかりきっている。
.
「征十郎」
久しぶりに会う父と対面して、ソファーに座る。
数年前より少し丸くなっている気がするが、まだまだ現役といったところか。
やはり緊張する。
「はい」
「経営の方は、どうだ」
「まずまず、といったところですね。右肩上がりです」
「そうか、ならいい」
去年から子会社をいくつか任されていた。
実質、会社を纏めているのは父さんだが。
近くの図書館で司書をしているテツヤにそれを話した時に、やっぱり赤司君は別次元にいますね。なんて半ば呆れるように言われて、テツヤも僕も同じ次元に生きているよ、と少し皮肉っぽく言えば、これだから赤司君は…と忌々しそうに睨まれた。
バニラシェイク奢って下さい、いや、そこは平等にじゃんけんをしよう。
勝敗は既に決まっていて、奢ってもらうと豪語していたテツヤは奢るハメになってしまい、マジバの机に突っ伏していた。
最後に会ったのは、いつだっただろうか。そんなことを思い出していたら頬が緩んでしまって、いけないと引き締めた。
「征十郎も、もう25だろう」
「はい」
「来年は26だ。…そろそろ結婚して、後継ぎをつくらなければいけない、だろう?」
「…はい。重々承知しています」
模範回答、こう言えば僅かに笑みを湛えて、何処かの令嬢の写真を見せる。
幼い頃から英才教育を受けているんだろう。上品な笑みを浮かべて笑っている。
綺麗な人で、それでも。
後にも先にも、僕が愛するのは唯一人だけだ。
「とても綺麗な方ですね」
「あぁ。今週末、食事会をするから、その時に会うことになるだろう」
「わかりました。」
.
.
蒸せ反るような夏の暑さに、目眩がした。
167人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「黒子のバスケ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨紅(プロフ) - 何度もコメント失礼します。本当に何回読んでも泣いてしまいます。人間の内面を抉るような文章の書き方、全てに感動しました。繰り返し読んでいます。ありがとうございました。 (2015年12月7日 0時) (レス) id: 85987802b2 (このIDを非表示/違反報告)
緋莉(プロフ) - 感動と切なさで胸が一杯です。。素敵な小説をありがとうございました!! (2015年8月23日 21時) (レス) id: 758bbf0526 (このIDを非表示/違反報告)
悪童 - 赤司様がいいです!!! (2015年7月20日 20時) (レス) id: 36a059792c (このIDを非表示/違反報告)
水城(プロフ) - 赤司様で!!! (2015年5月13日 23時) (レス) id: 4984122abc (このIDを非表示/違反報告)
雨紅(プロフ) - 赤司くんがいいです!! (2015年5月13日 19時) (レス) id: 4a5e53c7aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:綵架 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ayakamakar1/
作成日時:2015年4月25日 18時