ぼくたちの失敗

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「一緒には、行けません…」

「は？何で？」

目を丸くして浩輔さんは聞く。
同じ場所へ行くのに何で別々に行くのって。
そりゃそうだよね。

正直に話したほうがいいかな。
だってこれから先もこの距離感だと困るし。

「…太輔先生が嫌がるだろうから」

「弟なのに？」

「弟ですけど、一応男性なので」

「…え？まさか兄貴、すげえ束縛魔？」

「…」

黙っていても肯定しているのと同じだ。

浩輔さんはそんな私を見て、まるで新しいおもちゃを与えられた子どものように目を輝かせた。

「マジで？兄貴、そんなやべぇ奴なんだ！うわぁ、あんな紳士気取りしといて器狭いとか」

大笑いする浩輔さんの手を振り払い、私は頭を下げてから急いでカフェを後にした。



しばらく歩いていると携帯が鳴った。

太輔先生からだった。

『そろそろ迎えに行くよ。準備できた？』

「あ…、すみません、歩いて向かってます」

『え？どうして？迎えに行くって言ったよね、俺』

「あの、奥様に渡すお花を買いにいってました」

嘘をついたことに少し胸が痛む。

『…そんなのいいのに。でもありがとう』

柔らかい声。

同じ声でも浩輔さんとは全然違う。



今いる場所を聞かれたけど、ほんとにもうすぐそばまで来ていたから電話を切った。

すると前から太輔先生がやって来た。

「随分早かったね」

「はい、ちょっと早く家を出ちゃいました」

「でも大丈夫だよ。もう母さんもその友達も来てるから」

「えっ！」

「Aに会えるのが楽しみで仕方なくて、みんな早く来ちゃったみたいだよ」

クスクス笑う太輔先生だけど、私は笑えない。

どうしよう…、ますます緊張してきた。

門をくぐり玄関へ向かおうとすると、太輔先生に「こっち」と言われたから着いていく。

庭を奥へ進むと奥様が丹念に作り上げたお花のアーチの門があり、その奥には白いベンチがある。

先生は先に座ると私を手招きした。

それに従い隣に座ると先生は私を見つめた。

周りの花が先生の美しさを更に際立てていて、見とれていると、先生は微笑んだ。

「昨日、大丈夫だった？」

昨日…。

思い出してボッと顔が赤くなる。

「は、はいっ…。大丈夫、です」

恥ずかしくなり下を向いた。

先生は私をふわりと抱きしめる。

すると甘くて優しい香りが鼻を掠めた。

「こんなこと言うの、いい歳してほんと恥ずかしいんだけどさ…」

「は、い…」

何だろう…。

「俺、もうAのことまた抱きたくなってきた」

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