ぼくたちの失敗

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「太輔」

その時向こうから声がした。長い黒髪を靡かせてこちらへ歩いてくる女性。

「おば様達、待ってるわよ」

「まだ時間じゃないんだけど」

少しムッとした顔の先生。

この間横尾さんに見せた、少し砕けた感じの太輔先生の態度と同じだ。

多分この人がこの間浩輔さんが言っていた由宇さんっていう太輔先生の幼なじみかな…。

「はじめまして。太輔の幼なじみの大嶽由宇です」

「はじめまして…。石原Aです」

「おば様から聞いてる。すごく可愛らしい方ね。良かったじゃない、太輔」

フフっと笑う由宇さんに太輔先生が「でしょ」って笑うと「のろけないでよ」って由宇さんが太輔先生を軽く押した。

こんなことを太輔先生にできる人を見たことがないので驚いていると、突然後ろから肩を叩かれた。

「Aちゃん、もう着いたんだ。早かったね」

振り返ると浩輔さんだった。

「浩輔、また来てたのか」

太輔先生が浩輔さんに声をかけた。

「うん。これからは頻繁に通うようにするよ」

「今まであまり家に顔を出さなかった奴が、最近はどういう風の吹き回しだ」

太輔先生が聞くと、浩輔さんは私のほうを見た。

「ほら、新しくお義姉さんができるわけだし？仲良くしときたいなぁって。ね？Aちゃん」

「…は？」

太輔先生が険しい顔をすると浩輔さんは突然私の手を引っ張って玄関のほうへ向かった。

後ろから太輔先生が走ってきて、私から浩輔さんを引き離した。

「お前、一体どういうつもりだ」

低い声に私はビクッとなるけど浩輔さんはしれっと笑う。

「ごめんごめん、なんか二人の反応が面白くてさぁ。つい弄りたくなんだよね」

「ふざけるな。お前のおもちゃじゃないんだ」

「おもちゃって(笑)…そんな心配しなくても大丈夫だよ。だって俺が一度でも兄貴のもの欲しがったりなんかしたことあった？」

「…」

険悪な雰囲気の中、私達は玄関へ入る。

家の中はとても賑やかな声がした。

太輔先生がリビングの扉を開けると一斉にみんながこちらを見る。

「あらあら、いらっしゃい、Aさん！皆さんに紹介するわ。さ、こっちへ来て」

「は、はい…」

お花の会のお友達だという皆さんはとても優しく受け入れてくれた。

太輔先生の小さな頃の話もたくさん聞かせてもらった。

良かった。

太輔先生も穏やかに微笑んでいるし。

「ねぇ、Aちゃん。その手土産いつ渡すの？」

ソファの背もたれに寄りかかった浩輔さんが私にそう聞く。

そうだった！

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