マタギと双子と山猫と ページ20
＜東谷目線＞
｢山で玉井伍長達は今も行方不明だ｣
｢お前と行動していた｣
｢…不審な猟師を追跡して、俺だけはぐれました｣
私はあくまでも傍観者として徹する。この話にはついていけない。ここから分かる事と言えば玉井伍長と言う軍人は谷垣一等卒を含めた複数人で山を散策し、谷垣一等卒の言葉を信じるなら彼のみはぐれてしまった。
でも、尾形達は違う。
｢玉井伍長達は今も戻らん……お前が殺したな？谷垣源次郎一等卒｣
｢ッ、有り得ませんっ！！｣
｢ばぁちゃん、肩凝ってるねぇ…｣
｢おばあさんの頑張ってる証なのよ｣
尾形上等兵と谷垣一等卒が重く、面倒な話をしている只か、私と二階堂一等卒は肩こりについて語る。因みに谷垣一等卒が『おばあちゃんに何かしてみろ、容赦しない』と忠告してきた。
肩揉みしているだけなのだが……。
二階堂一等卒は、根は良い子なのだ。(‘不死身の杉本’の話題を除いて)行動も良い子だ。今回の肩揉みは尾形が『やれ』と言うからしているが、それはどうでも良い。
｢……｣
谷垣一等卒は、尾形上等兵の背後にある壁に立て掛けられた三十年式歩兵銃を見る。すかさず尾形上等兵は
｢今、アレを見たな？｣
｢銃があっても、ボルトが無きゃ使えんぞ｣
不敵な笑みと共に抜いておいたボルトをちらつかせる。この男は言葉もそうだが頭も回る。俗に言う敵に回すと厄介な野郎、とは尾形上等兵みたいな人の事を言うのだろう。
言葉でも鶴見中尉に勝てずとも、技術は上々。頭の回転が早く、それでいて情報収集も可能とする。正直、日露戦争等の戦争が無い、平和な世だったなら、もっと活躍出来たのではないだろうか？そんな時代が来るとは思えないが…。
そう言えば、かつて宇佐美上等兵が言っていたな…『百之助は性格がアレだけど、認めたくないけど、頼れる奴だ』と。
｢尾形上等兵殿……どうか、この人達だけは…！！｣
谷垣一等卒、貴方は馬鹿か？その言い方では最早認めたも同然。自白したと思えてしまう。
｢……ふっ、冗談だ｣
｢カマをかけてみた。お前は嘘が苦手のようだな。谷垣一等卒｣
｢貴方が爽やかな笑みを浮かべると違和感が凄いから止めてくれるかしら？｣
｢やかましい｣
何とも爽やかそうな笑みで冗談と語るが、冗談にも聞こえないし、違和感が凄い。
とんでもなく笑顔が似合わない男だ。不敵な笑みは良い。見下す笑みも良い。でも純粋な笑顔は駄目だ。誰だこの人と言う状態になってしまう。
本当に笑顔が似合わないな……。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
