コタンに行こう！ ページ19
＜東谷目線＞
私達はあれから２日、３日程度徒歩で移動し、小樽付近にまで来た。最初は慣れなかった雪道もコツを掴み、慣れきたと思う。
小樽は北海道の中でもそれなりに賑わっていて、私にとっても思い出深い。何故ならここで鶴見中尉に出会ったのだから。
「‘不死身の杉本’はアイヌのガキを連れていた」
尾形上等兵は何処か楽しげに語る反面、二階堂一等卒は忌々し気にしていた。後で聞いたのだが、双子の片割れ(浩平)はその‘不死身の杉本’に殺されたらしい。‘不死身の杉本’…どんな極悪人なんだ？
黙々と考え混んでいるといつの間にか尾形上等兵達がアイヌの村に行くため、その村の子供を見つけて案内させていた。
「尾形上等兵殿…‘不死身の杉本’が居た場合どうするのかしら？」
「まさか、お手て繋いで仲良しこよしする訳じゃないんでしょう」
「頭をぶち抜く」
「流石、としか」
中々物騒な話をしている自信はある。けれど、私只尾形上等兵に連れ出された一般人だ。殺しも何もしない。それが私なのだから。
「コタン(村)！」
子供が声を出し、私達は目指していた場所に辿り着く。
尾形上等兵曰く、ここが‘不死身の杉本’と遭遇した場から一番近い村らしい。取り敢えず村で一番偉い人の所に案内してもらう。
「何だか注目されてて落ち着かねぇよ…」
二階堂一等卒が呟きながらチセ(家)に着く。
そこから色んな作法を見よう見まねで行い、フチ(祖母)と呼ばれるお婆さんと対面した。
会話は良く分からないから、手振り素振りで何とか伝え、二階堂一等卒に肩揉みさせて待機しておく。
傷を負って動けなかった軍人…‘不死身の杉本’かな？と思っていた矢先、ただいま、と男の声が聞こえた。私は身構えているが、尾形上等兵は先に銃のボルトを抜いておき、静かに座っている。
「どうしたオソマ」
「シンナキサラ！」
先程から覗き見していたオソマと言う子供に声をかけた後に此方へ来る。
そこに居たのは、顔が濃い厳つい男だった。この人が‘不死身の杉本’？
「ッ…尾形、上等兵殿…！？」
「傷を負った倭人ってのはお前だったのか、谷垣一等卒」
どうやら違ったようだ。一等卒、つまり尾形上等兵より階級が低い兵だ。
「アマッポ、仕掛け弓にかかりまして、今まで療養していましたッ」
「歩けるようになったにも関わらず、何故鶴見中尉の元に戻らない？」
「…歩いたのは今日が初めてです」
「今日が初めて、ね」
尾形上等兵は、ジロリと谷垣一等卒を見ていた
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
