おまえを ページ16
まるで初めて知識を得たような感覚だった。
約束を守り名前を呼んでいたレオナには応えず、あのクロウリーに応えたと聞いて、どうしようもない感情が湧き上がったのだ。
今思えばそれは怒りではなく、寂寥。
自分の声を聞いてくれなかったことに子供が拗ねた感覚に近いだろう。――そうだ。Aがいなくなったあの日からレオナは成長していない。
なぜならあの頃レオナを愛し、慈しむ者はいなかったから。
それなのに血の繋がりもない赤の他人がそうしたのだ。さも当然かのように。膝を付き、慈母のような眼差しを向け、愛しそうに名を呼んだのだ。
嬉しくてたまらなかった。名前を呼んでほしくて子供ながらに口実を探していたほどに。
――ああ、Aと話すとやはり頭が冴える。無自覚だった思いにすら気づく。
潤んだ珍しい紫色の瞳が不安げにレオナを覗き込む。首から下げているエメラルドのループタイに涙がぽつんと落ち、煌めいた。
あれはレオナの贈り物だ。――きっとレオナが贈ったものならAは喜んで、肌身離さず身につけるだろうと確信して。
「……A」
はい、と震えた声で返事をする。
「おまえを許す。だからおまえも自分を許せ」
「……それはできません」
「A。俺は許せ、と言った。それが自虐じゃなくて決意のものなら許してやるが。前者なら、自分を罪の意識に縛りつけるような真似はするな」
ぐ、と堪えるような表情を見せる。不満を押し潰しているのだろうか。
そしてその表情を浮かべたまま、渋々頷く。今は元主と元護衛役という関係だが、レオナへの崇拝に近い忠誠心は変わっていないようだ。
「まぁ、俺にその権限はないか。おまえは護衛役の任を外され王宮を永久追放だし、俺はもうおまえの主人じゃないからな」
「っそれは、そうですが……私は変わらずレオナ様に忠誠を誓います!」
「吠えるなよ、うるせぇな。忠誠心を抱くのは勝手だが……一つ言っておく」
ぐいっ、と顔を近づけ言った。
「おまえが好きだ」
「…………えっ?」
「俺たちの関係は変わったが今も昔も俺はおまえを愛してる」
「えっこ、困ります」
「困らねぇだろ。教師と生徒なら恋人になっても許される」
「じょ、冗談ではないのですか?!」
レオナも、Aを愛する心は変わっていない。呆けた面をする愛しい黒豹に口角を上げ、尖った牙を覗かせた。
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竹原洸(プロフ) - 続き…見たいです…楽しいです…幸せです…あっ禁断症状がぁぁぁ!! (2022年8月21日 23時) (レス) @page18 id: de670ee21e (このIDを非表示/違反報告)
葉紅(プロフ) - もう更新しないんでしょうか?すごく面白いので続きが見たいです。更新楽しみにして待っています! (2020年9月16日 21時) (レス) id: 915a610475 (このIDを非表示/違反報告)
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