番外編「幸せな。」 ページ14
バレンタイン当日、いろははナオミに護られていた。
……主に、太宰から。
「あの」
「いろはぁ!!私に菓子を作ってくれて__」
「太宰さんは引っ込んでてください。」
「ナオ」
「ひっどぉい!!ねぇいろは、ナオミちゃん酷いよね?」
「太宰さんが悪いのですわ。」
いろはの話を聞こうとしない二人に、いろはは堪忍袋の緒が切れる。
「いい加減に……して下さい!!まず太宰さん!!お菓子の前にまずお仕事してください!!何時まで国木田さんを困らせる問題児で居る心算ですか!!次にナオミちゃん!!私は幼子でも生まれたての小鹿でもありません!!一人で歩けます!!ですから、ナオミちゃんは自分のお菓子を配りに行ってください!!」
「でも__」
「でもも何も有りません、太宰さん!!」
「私、__」
「ナオミちゃんも善は急げ、です!!」
「「は……ハイ!!」」
いろはに叱られた二人は、声を揃えて逃げるかの様に散っていく。
その様子を見ていたらしい国木田に気が付いたいろはは、チョコクッキーをかばんから出すと、微笑みながら渡す。
「……いつも、お世話になっています。」
「嗚呼、此方こそ何時も太宰の相手、有難う。乱歩さんが待っていたぞ。」
「ほんとですか?じゃあ、早く行かないと。」
そう、嬉しそうに云い、お辞儀をすると偶々近くに居た谷崎にも渡しているいろはを、国木田は微笑みながら見ていた。
それは、妹を見る兄の様に……____。
______
いろはは「一つ」を除いて、全てを渡し終わっていた。
そう……想い人宛のものを除いて。
ナオミにはあぁ云ったが、厭勿論其れも有るのだけれど、「本命」はいろはにとって、初めてなのである。
「……厭、今年は別に本命とか、そういうのじゃ__」
「あれ?いろはちゃん?」
「ひぃ!?」
後ろから声をかけられ、思わず可笑しな声を出してしまったいろはは顔を真っ赤に染めて「これは、その、」等と言い訳に似たものを口にしていた。
「……えっと、可愛い包装だね?誰に上げるの?」
控えめに微笑む敦に、いろはは少し頬を染めたまま、
「……これ、何時ものお礼!!」
と云って敦に押し付けると、更に恥ずかしくなったのか去っていく。
一方、押し付けられた方の敦はいろはよりも赤く頬を染めていた。
「これって、まるで」
告白みたいだ、等と思い乍ら。
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作者名:業猫 | 作成日時:2020年1月6日 15時