黒い煙 ページ43
カイトside
足も手先も痺れたように動かない。ただ流れる冷や汗と早鐘のように打ち続ける心臓の音だけを白く靄がかかる頭で感じていた。
剣を握る手に力が入らない。視界の隅に、勝ち誇った笑みを浮かべるベネスの姿があった。
ゆっくりと、剣の切っ先を僕に向けて、近付いてくる。
動かなければ……。そうだ、まだ、終わっては、いない。
どれだけ失望しても、無力だと自分を恨んでも、まだ、この城にはフウカやチトセ、カリンがいる。
……せめて、あの3人だけは、魔法界に帰さなくては……。
もうこの際、自分の命がどうなったって構わない。
もう、後戻りなんてできない所まで、来てしまったから。
震える指先に力を込める。薄気味悪く笑って一気に距離を詰めてくるベネスを向かい打つ為に、剣を構えた。
その時、だった。
どこかから膨大な魔力の気配を感じた。ビクリと体が反応したが、すぐにふっと軽くなって、息を吐き出す。
──……今のは、とても暖かい魔法だったな、と、頭の片隅で考えた。
ベネスが、ハッと勢いよく上を見上げる。僕もつられて天井を見上げた。
そこには。
まるで、邪気のような黒い煙が、とぐろを巻くように浮かんでいた。
ベネスの息を飲む音が聞こえたような気がして、その黒い煙がゆっくりと動き出した。
まるで、そこがあるべき場所だとでもいうのか。
吸い込まれるように、その煙は、ベネスの体内に入り込んでいった。
*
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