らくだい魔女と両思いのち片思い～奇跡が起こる瞬間に～ (ページ42)

今日:10 hit、昨日:9 hit、合計:13,081 hit

植え付けられた"常識" ページ42

カイトside

剣を握る手が汗とは違う理由で滑り、剣を取り落としそうになる。

グッと手のひらに力をこめてなんとか耐えたあと、また絶望に頭がいっぱいになって、額から垂れた冷や汗で視界がぼやけた。

絶望、した。失望した。

愚かだった。弱い上に、結局僕は、とても愚かだった。

彼らの言葉は信じてはならない。そのくらいは心得ていたし、実際信じているつもりはなかった。

しかし。

僕にとっての"常識"、僕の知識の"土台"は、よく考えれば彼らが植え付けたもの。

それを、忘れ去っていたのだ。

その魔石は、本来ならば国の宝として国庫の最奥で厳重に守られているはずのものだ。

しかし、よく考えろ。その知識は、どこから得た？誰に教えられた？

──教育係である、ガートだろう？

僕は幼い頃から病気がちで、学校には通っていなかった。

それすらも彼らからすれば好都合だったのかも知れない。

いつでも、手の届く範囲にいて、与える知識すらも自分達で選べたのだから。

──僕の当初の作戦(フウカの誘拐前まで)はこうだった。

フウカのもとに行った後、予定よりも早くこっちに戻り、義父さんたちにバレないうちに国庫に忍び込む。

転移石も、もともとはそのために用意した物だった。

その後、今まで義父さんたちに見せられてきた魔法を駆使して守りを破り、魔石を、たったひとつの魔法界とこの国を結ぶ道を、破壊する。

そのための算段も立てていたし、ならせめてフウカと会えなくなる前に、フウカに自分の恋心を自覚してもらおうとまで考えていたくらいだった。

もちろん、魔石を壊し、魔法界への道を塞いでしまえば、義父さんたちも気付き怒り狂うだろう。

その場合、自分の命がなくなるかもしれないことも。

その覚悟だってしていた。ただ、自分の中の根本的な常識を、疑うことをしなかった……。

僕は、結局、大事なものを何一つ守る力が無かったのだ──。

＊