1章ある街にて 7話 ページ8
自分でも、何故こんなことをしたのかわからなかった。
気づいたら、潜っていたテーブルの下から出て、部屋の窓へ走り出した。
「!?Aさん!!戻って!!」
アリイさんの叫ぶ声が聞こえるが、私は振り向きもせずに窓へ駆け寄る。
何故そうしたのかはわからない。
ただ、じっとこの状況が過ぎるのを待つことが出来なかった。
ここで動かなければならないという使命感で動く。
これは、私の本能なのか、それとも、やるべき事だったのか。
私は窓の外を見る。
「っ!?」
私はその光景を見て息を飲んだ。
そこには、空に無数の…いや、数え切れないほどの黒い物体が光を放ち、辺りの建物を破壊していたからだ。
身体の中を言いようもない恐怖感が襲う。
知っている。
私は、この光景を知っている。
何故知っているのか、この光景が何なのかはわからない。
けれど、知っているという思いだけが強くあった。
私の頬を冷や汗が伝う。
思い出せない。
ここはどこだ。
あの黒い物体はなんだ。
知っているはずなのに!
つい最近までわかっていた筈なのに!
私は途端に走り出した。
「ちょっと!?Aさん!!」
「アリイさんたちは、絶対そこから動かないで!!」
後ろから私を呼ぶ声がするが、今の私には聞こえなかった。
ただ、行かなければならないという思いと、恐怖感とが胸の中で渦巻く。
待って、お願い!
…私は、何故こんなに必死なんだろう。
何に待っていて欲しいんだろう。
わからない。
でも、行かなくてはいけない。
こんな、よく知らない土地で、突拍子もないことが起きていても、私はあの場所へ行くんだ。
あそこにはきっと、何かがある。
私はボロボロになった街を、ひたすらに走っていた。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年10月3日 17時