「」I miss you…【MS】 (ページ21)

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その数日後、僕は探していた本を取り寄せてくれる書店をやっと見付けて。店舗に届いたと連絡があったから直近の休日に少し足を伸ばして引き取りに行った。
家を出るとき向こうの空に厚い雲が見えたから傘を持って出たのが正解だった。書店に入る前は降っていなかった雨が、出る頃には激しく地面を叩きつけていた。

普段あまり訪れない場所だから来る時は一つ前のバス停で降りて散歩も兼ねて道のりを楽しんだけれど帰りは最寄りで乗ってしまおう、と足を止める。
屋根のあるバス停で良かったと安堵しつつ時刻表に目を凝らせば、次は凡そ15分後に来るらしい。ぼんやり立っているだけでは長い時間。バッグの底に忍ばせた本を開いてしまいたかったけれど雨に濡れて紙がよれてしまうのが嫌で憚られた。

目の前の車道を何台もの車が通り過ぎ、タイヤが水飛沫を上げるのを眺めていた時。ばしゃばしゃと音を立てながら人が走ってくるのが聞こえた。視界の端にぼんやり入ってきたその人は足を止めると小さく溜息を吐いた。
バスに乗るんだろうな、時刻表を見るのに僕は邪魔だろうか、と考えていた時、耳に届く懐かしい声。

「先生、？」

不意打ち過ぎるそれは雨音に紛れた空耳かと思った。まさか、でも、なんて声の方を向くと、そこには狂おしいほどに焦がれたひとが、いた。

「櫻井君？」

名前で呼びたかった。でも会わない間、僕は焦がれていたけれど彼もそうだとは限らない。嫌な思い出になってしまっているかもしれないと、名字で呼ぶのが精一杯だった。
随分と雰囲気の変わった彼は呼び掛けておいて呆気にとられていて。見た目は変わったにせよ中身はそこまで変わっていないのが窺い知れて、思わず笑ってしまう。

嬉しい、嬉しい、もう二度と会えないと思っていたひとが目の前にいる。僕は舞い上がってしまって、調子に乗ってはいけないと言い聞かせながらも彼がずぶ濡れなのを言い訳に自分の家に呼んだ。
まさかハンカチを渡して、それじゃと別れるには薄情だとさえ感じるほど見事に雨に降られていたから。これくらいなら、家に呼ぶだけなら許されると思って。