「」I miss you…【MS】 (ページ1)

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かの有名な文豪の綴った言葉を借りるのであれば、恥の多い生涯を送ってきたように思う。その人の書いた人物ほど劇的で壮絶な、或いは憂えるほどの情愛に満ちた人生ではなかったけれど。

僕の側に小鳥がいた期間がある。凡そ三年、桃の種を蒔き実が生るまでの時間。ふたりだけの会話を交わしたのは、更に半分ほどの時間。まるで瞬きする間のことのようだった。けれど今でも、彼が囀るように話す声や甘えた目、愛を欲しがる唇、何から何まで鮮明に覚えている。

見た目通りの言葉遣い、態度。反比例するかのような成績面、語彙力、発想力。少し話しただけで所謂地頭の良い賢い子だと思った。それでいてたまに驚くほど抜けたことをしたり、言ったりするところが可愛かった。
本人の自覚のないところで我慢をしてしまうところが健気で、僕に合わせて背伸びするところも、世間体や煩わしい外野に対して“弁えて”いるところも、そのすべてが愛おしくて。

僕にとってあまりに魅力的だった、幸せの青い鳥。

こんな近くにいたんだと気が付いた時、嬉しい気持ちと、どうにも出来ない立場に揺れた。そもそも“普通”の“高校生”である彼に、マイノリティの自分が近付くことはどう考えても宜しくなかった。

僕は物心ついたときから“何か気になる”という対象が同性だった。異常な事だと、何かの間違いだと思ったけれど女性と付き合ってもキスしても、それ以上の事をしても特に何の感情も抱かなかった。肉体的反応はあったにせよ。
むしろ恋とは、異性を好きになるとはそういう事なのかとさえ思った。本やドラマや映画で目にする狂おしいほどの切ない気持ちや、胸が張り裂けそうだなんていう感情は空想のものなのではないかと。

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