58_何も言い出せない(宮地side) ページ11
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『帰り…ます』
そう告げて走り去って行った彼女の姿が、
一夜明けた今でも脳裏に焼き付いている。
「意味わかんねーよ…」
昨日、アイツがあんなに遅れた理由は何だ？
伊月が言うに、転んだだけらしいが・・
『小林Aに騙されてる』
『いつまでも騙し続けてるんだね。』
『ビッチ』
あの女の言葉。
その時こそは、デタラメに違いないと確信していた。
だけど・・
「あれ、宮地早いな。出掛けるのか？」
「は？」
声のする方を見ると、寝ぼけ眼の大江。
「お、おう。」
「姫ちゃんだろ？」
「・・そうだよ」
今会いたい奴とか、アイツ以外にいねーよ。
"コレ"も、結局渡せずじまいだったしな。
そんな事を考えながら、右ポケットに手を重ねた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
電話に乗り、数駅股越せばアイツの住むアパートへと着いた。
「あ！？」
そこにいたのは、
「…何ですか。」
あの女・・夏目雪だった。
「あ、あんた、何しに此所に」
まさか、もう一度アイツに酷い事言うつもりか！？
「俊に会いに来たんですよ。小林Aに興味の欠片もありません。」
「お前…！」
言い回しに皮肉が込もってやがる…(怒)
「ああ、そう。」
「…そちらは上手く行きましたか？」
「は？」
そちら"は"って何だ・・？
上手く行ってねーから来たんだよ俺は！
「あ、俊。」
女の視線の先に目を向ける。
「・・は？」
伊月がインターホンを鳴らした数秒後、
部屋から出てきたのは紛れもないAだった。
「あれ、何だよ」
「見たままじゃないですか？」
いや、見たままって言われてもわからねーよ。
「…泣き落としですかね？」
「はぁ？」
「あなたもああやって、小林Aに落とされたんですか？」
「！？」
Aにどんだけの恨みがあんだよ…この女。
てか、そっちは何故そんなに冷静なんだ？
自分の彼氏だろ・・？
「あ…」
刹那、伊月がアイツの部屋に入って行った。
マジかよ・・
「行くんですか？」
「・・・」
「今行けば、ただの修羅場ですよ」
端から信じる気は無かった。
この女の言葉なんて・・
「言ったでしょ？
あなたは小林Aに騙されてる。」
だけど、
辻と妻が合い過ぎた一連の出来事を思い返せば
俺は、何も言い出せなくなった。
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作者名：ぴこ | 作成日時：2018年3月10日 18時
