拾五 安寧 ページ17
『ただいま』
あれから歳三と別れた私は住まいに戻った。
歳三に貸してもらった手ぬぐいは血が付いてしまったので、
すぐに洗って乾かしてある。
まだ傷の痛みは残っているが、気にするほどでもない。
とりあえず汚れた体を何とかするために湯屋へ行くことに。
(この着物･･･結構気に入ってたのだけれど)
林の中の道ということもあり、着物は無残にも泥だらけだった。
｢A、そんなに汚れて･･･転んでしまってのですか？｣
床についている母様はそう言って心配そうな顔をする。
(さすが母様、お見通しね)
『･･･そう、久しぶりに盛大に転んだわ』
私は肩を竦めた。
そして仕方なく替えの撫子色に桔梗が描かれた着物を纏う。
腰の位置くらいある髪は高い所で団子に結った。
(帯や帯締めも変えたほうがいいかしら･･･)
そうも思いはしたが、時間が惜しいので妥協することにする。
『遅くならないうちに湯屋に行って来るわ。泥なら乾けばそれなりに落ちるだろうし』
｢えぇ、わかりました。夕餉は私が拵えておきますね｣
『何言ってるのよ。早めに帰ってくるから、母様は休んでいて頂戴』
｢今日は随分と体調が良いのです。心配は要りませんよ｣
『絶対だめよ。危険だわ。お願いだからやめて頂戴、母様』
｢A、早くしないと遅くなりますよ｣
(･･････)
本当に、止めて欲しいんだから。
母様が居なくなったら、私は･･････
少しだけ母様を見ると、すぐに顔を背けた。
『じゃあ･･･行って来るわね』
後ろ髪惹かれるような思いもありながら、私は住まいから出た―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――
外に出れば大分日も暮れていた。
そんなことは気にも留めず、私はさくさくと歩みを進める。
この場所から湯屋は結構な距離で、早く行かなければ帰りが結構怖い。
真っ暗だし、少しだけ身の危険も感じる。
かといって小刀なんてもの隠し持ち歩くなんてことはしない。
そこで殺されるのも、運命なんだし。
そこまでして私は生き長らえたくない。
早かれ遅かれ死ぬのがこの世の理。
私の場合、それがちょっとだけ早く訪れるかもっていうだけ。
ただそれだけの話。
でも今は、少しでも長くこの時が続けばって思うの。
誰のせいかしらね。
脳裏に浮かんだあの人の顔に、クスリと笑みが零れた。
続く
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時(プロフ) - 天都さん» がんばってください（＾＾） (2013年9月27日 20時) (
レス) id: 41bc7e5c72 (このIDを非表示/違反報告)
天都 - 時さん» そんな…ありがとうございますっ！あまり更新できていないのですが、少しずつ更新していきますね (2013年9月27日 7時) (レス) id: 74fa01fe26 (このIDを非表示/違反報告)
時(プロフ) - 天都さん» いえいえ、私は真実を言っただけです (2013年9月25日 20時) (レス) id: 41bc7e5c72 (このIDを非表示/違反報告)
天都 - 時さん» そう言っていただけると嬉しいです、ありがとうございます(^^) (2013年9月24日 23時) (レス) id: 74fa01fe26 (このIDを非表示/違反報告)
時(プロフ) - とってもおもしろくて、いい作品ですね（＾＾）（その文才がうらやましい…） (2013年9月23日 20時) (レス) id: 41bc7e5c72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：天都 | 作成日時：2013年3月23日 17時
