門の前で―【紅美鈴】 ページ10
「よお美鈴。仕事してる？」
敬礼ポーズをしながら門の扉を開ける少女Aは門番である紅美鈴の隣へと行く。
「Aさん、どうしたんです？」
「これ。昼食持ってきたんだよ」
Aが美鈴に渡したのは昼食が入ったバスケット。今日の美鈴の昼食はサンドウィッチらしい。
『いただきます』と小さく礼をし、口に頬張る。それを隣で見るAは『座らないの？』と聞く。
「門番ですからね。いつでも対応できるようにしないと」
「………」
気に食わないと言いたげな顔をして美鈴を見上げる。
にしても手足が器用すぎる。片膝にサンドウィッチの入った入れ物を乗せながら食べ進める姿は、すごいとは思うが、どうも落ち着かない。そう考えているうちにも美鈴は手を合わせ『ごちそうさまでした』と片付け始める。
「いやぁ、美味しかった…でも普段と味が少し違ったような気もしますが、美味しかったですと咲夜さんに伝えてくれますか？」
「え？あぁ、うん…」
「…どうしました？何か悩み事でも？」
Aの顔を覗き込み、不安げな顔で問う。目の前にある美鈴の額に人差し指を置きながら、不機嫌な顔で言う。
「これ作ったの、私なんだがな」
「えッ？Aさんが、ですか？」
コクンと頷き、そのままデコピンをかます。『あいたッ』と額を撫でる美鈴から顔を背け、腕組をする。
「あ、あぁ…あの、怒ってます、か…？」
「怒ってます」
「……怒ってる人が怒ってるなんて自分で言ったりしないと思いますが…」
そう言い終ってからハッと口元を押さえる。その様子を見たAは不覚にも笑ってしまい、嘘だと言いながら美鈴が持っていたバスケットを受け取り、嬉しそうに言う。
「美味しいって言ってくれたのは、嬉しかったよ。けど、咲夜の味にはまだ敵わないと見た」
門の扉に手をかけ、叫ぶように言い放つ。
「いつか美鈴の一番になってやるから、それまで待ってろ！！」
扉を強めに閉め、館の方へと歩いていくAを母親のような目で見てから、門番の仕事へ戻る。
「頑張り屋なんですね、Aさんは。彼女が私の一番になるまで、いつまでも待ちましょう」
酒に酔って、彼女に溺れて―【十六夜咲夜】→←隠したい未確認な想い―【封獣ぬえ】[後編]
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作者名：狂霧@HAL | 作成日時：2017年12月1日 17時
