△ 雷神が選んだ男の子 ページ5
「じゃあ、Aちゃん、おやすみなさい」
「……おやすみなさい……」
手を離そうとしないでいると、善逸が照れたような、戸惑ったような、困ったような顔をしたのが気配でわかった。ごめんね、困らせて。部屋の前で別れてから、ふすまを閉めた。その瞬間、孤独感にのみこまれた。
疲れきった体を畳の上に横たえる。この世界に善逸がいるってことは、同様に鬼もいるってことだ。鬼舞辻󠄀無惨という男も。このまま死ぬのかなとぼんやり思った。考えない方がいいことばっかり考える。いけないなかないでA。勝手に涙が出てくる。喉に力をぐっとこめて声を圧し殺す。目の奥が熱い。涙が伝って口に入った。しょっぱい。ひとりなんだ、と思った。鬼のいる世界に、わたしは、ひとり。
「……Aちゃん?」
遠慮がちな声色と、ほとほとと襖を叩く音。どろついた胸のつかえが溶けていく。思考の海から引っ張りあげられ、這いつくばって襖を開けに行く。
「あの、お腹空いてたら、桃食べないかなって思って……」
善逸は口ごもりながら腕のなかのカゴと小刀を見せてきた。わたしはうなずいた。ほんとは食欲なんてなかった。それは心の音が聞こえる善逸だって知ってただろうけど、わたしは部屋に善逸を入れたし、善逸は桃を切り分けてくれた。おいしくて3つも食べちゃった。
翌朝に善逸が「あれは特別な種類だから、むやみやたら食うなと言っただろう!」とか叱られているの見ちゃったけど、かっこつかないだろうから、なにも見てないフリしてあげる。
△
「善逸の髪って綺麗だね」
夜が明けて、陽のしたにいる善逸を見てびっくりしちゃった。想像していたより、画面で見たより、うんとまばゆい金色に。
「実はちょっと前にね、雷に打たれて染まったんだ。でもきっと、この金は俺にはもったいない。同じ雷の呼吸の使い手でも、じいちゃんや獪岳がもらうべきなのに」
「そ?わたしはその雷、善逸がふさわしいって選んだんだと思うけど」
善逸は泣きそうな顔で笑って「変なAちゃん」と、わたしを抱きしめる。
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あき - うわぁ、HUNTERHUNTERも書いてくれるなんて……🥹🥹 (2023年1月30日 14時) (レス) @page50 id: 099b645bba (このIDを非表示/違反報告)
まっひぃ - 善逸のそういう所好きだぁー!😁かわええ (2021年11月11日 15時) (レス) @page48 id: d24aae8d9d (このIDを非表示/違反報告)
ひとみちゃんDX(プロフ) - 今まで読んだ中で一番好き! (2021年10月29日 12時) (レス) id: 0e9cb43b28 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ割り人形 - わあわあ好きだあ途中どうなったのってなったけどちゃんとハピエンで良かったああうわん嬉しすぎて嬉し涙が…というかヒロ◯カの小説も書いていらっしゃるなんて!今すぐ読んできます!あ、この作品めっちゃ良かったです!好きです!(唐突の告白 (2021年9月12日 7時) (レス) id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 sud .(プロフ) - とっても素敵でした。 (2021年9月9日 15時) (レス) id: a463316156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2019年10月4日 22時