私の先輩《F》2 ページ10
「あ、仕事してた……の?」
リビングに入ると、シンプルでオシャレなダイニングテーブルにノートパソコンが開かれていた。
「少しね。Aが来るまでに終わらせておくつもりだったんだけど、もう少しかかるかな……。」
画面には、細かい数字が並んだ表計算ソフトが開かれていた。
「あ、あの、私、今からシチュー作るし、お仕事してて下さい!なるべく静かにしますから!」
カッコよくて仕事もできる。会社での評判も、取引先からの信頼もパーフェクトなカレの邪魔をしたくない。
ましてや、あんな子と付き合ってるから仕事に支障が出てるなんて、私のせいで藤ヶ谷先輩の評価を下げるなんてもってのほかだ。
「ありがと。」
私の意気込みに、整った唇の口角を上げて微笑んだカレが、優しくポンっとその手で私の髪に触れた。
「がんばって……ね。」
鏡を見なくてもわかるほどに、耳まで熱くなる。
「Aも、頑張って美味しいシチュー作ってね。」
「はいっ!」
キュゥっと胸が締め付けられる。
呼ばれる名前も、向けられる言葉も、全て私の為のもの。私だけの為のものなんだ。
「A。」
スーパーのビニール袋を握りしめて、キッチンに向かう私を呼び止める声に振り向くと、ダイニングテーブルについた藤ヶ谷先輩が頬杖をついて私を見ていた。
「二人の時は、敬語使わないルールも頑張って。」
「あっ……う、うんっ!」
長い片想いで刷り込まれた先輩後輩の関係は、なかなか抜けなくて、恋人同士の現実が、いつまでも夢の中にいるみたいな感覚。
どちらが現実なのか、わからなくなることもしばしば……。
クスクスと笑うカレに、赤い頬とニヤける口元を見られないように背を向けた。
***
カチカチとマウスをクリックする音。
コトコトとシチューが煮える音。
時々聴こえるため息みたいな深呼吸。
料理教室に通っておけばよかった、って、ガッカリする自分のため息。
盗み見る藤ヶ谷先輩は、会社で見るビシッと決まったスーツ姿じゃなくて、ラフでオシャレな私服でドキドキする。
「あのぉ、……太輔?」
邪魔をしないように、敬語を使わないように、気をつけながら声をかける。
でも、私の声は、届いてないみたいで、パソコンの画面をじっと見つめて、難しい顔をしながら唇に指先で触れるカレ。
邪魔しない……。
心の中で唱えて、シチューの鍋をかき回す。
「……何?」
かなりの時間差で帰ってきた返事は、少しだけ冷たい。
995人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
植尾あい(プロフ) - nanacoさん» んふんふ(//∇//)楽しんでいただけたようでよかったです!こういう雰囲気は、藤ヶ谷くんが似合いますよねぇ。また、イチャイチャするだけのお話を書きたいなーと、思いました! (2020年7月31日 17時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
nanaco(プロフ) - 甘々藤ヶ谷さん!(//∇//) ごちそうさまでした、最高すぎます…(TT) ありがとうございます(TT) (2020年7月30日 23時) (レス) id: a7b3edb10a (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» ナナさん!!!お久しぶりです!お元気でしょうか? そうなんです!星に願いをに続いて、運命なんです!伝わってよかった(^^) 切ないけど幸せな気持ちになってもらえたら嬉しいです。 (2020年5月30日 13時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - あいさんお久しぶりです!!これは運命…と気づいた瞬間に涙が…。心がポッと暖かくなりました!! (2020年5月30日 1時) (レス) id: 3bad9f733c (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» 年下俺様生意気な渉に迫られて、メロメロですよね。年上イメージがある横尾くんですが、こんな関係も時にはありかな?と。楽しんでいただけて良かったです! (2020年5月8日 22時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:植尾あい | 作成日時:2018年9月12日 22時