二人の『前』 ページ30
「ほらっ」って、ニカが示す場所は、クッションに座るニカの長い足に囲まれた特等席。
その場所に戸惑うのは、何度目？
いつまでたっても慣れなくて、慣れようとしても、やっぱりぎこちなくなってしまうのは、きっと、ニカに恋をしてるから。
「風邪引くよ。早くっ！」
「………うん。」
濡れた髪で赤い目を見られないように隠して、俯いてリビングに入る。
ニカの傍に立つと、ブレスレットが揺れる手が私の手首を掴んで引き寄せる。
「もーー、いい加減、慣れてよ。」
そう言って笑うニカに、少し強引に特等席へ座らされる。
「だって………。」
言い訳なんて見つからない。
スウェットからのぞくニカのつま先に視線を落として、自分の膝を抱えて座る。
背中に感じるニカの体温。
カチッとドライヤーのスイッチが入る音がして、辺りに温かい風が広がる。
「ﾝﾌﾌｯ 熱くても我慢して下さーい。」
「え？じゃあ、自分でやる。」
「何でだよっ！そこは、もうちょっとさぁ。」
私の真似をするニカをあしらって、からかう。
私の態度に、文句を言いながらも適温の温風が髪を吹き抜け、ニカの指が触れる。
時々、耳や首筋に触れる指先に、胸の奥がキュンと音を立てて、その度に、私の恋は、まだ、始まったばかりだったことに気づく。
始まったばかりだった。
手にしたばかりだった。
キミをひとり占めできたと、思ったのに……。
ドライヤーの風の音だけが聞こえる部屋で、私も、ニカも、一言も喋らない数分間。抱えた膝にあごを乗せて、ただ、私の恋のわずかな思い出を思い返していた。
「はい。次、前髪。こっち向いて？」
ニカの声に一瞬固まる、この瞬間が一番恥ずかしくて、どこを見ていいのかわからなくなる。
もぞもぞと向きを変えて、ニカと向かい合うと、近すぎる距離に目を合わせられなくなるから、一瞬合わせた視線を、ゆっくりと、首から鎖骨、胸へと落としていった。
「……前髪、伸びたね。」
優しい声と共に、綺麗な指先が濡れた前髪に触れる。
ニカ独特の少し離れた小指の居場所と、柔らかに曲げられた指に、また、心が惹かれる。
「ほら、前見て。」
ニカの髪を乾かす時に、私が言ったのと同じ言葉。
ブレスレットの揺れる手が、私の頬に触れ、顔を上げさせる。
「前…………、オレのこと、見てて。」
ニカが指す『前』
私が指す『前』
その先が、同じじゃないこと、気づいてる。
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植尾あい(プロフ) - 千明さん» ｉｆ聞きながら？！私、自分の書いた妄想のくせに、それやると悲しくて涙ぐむんですよ……どうかしてる。祈りも最近やばいです。シーンタイトルにしちゃいました……切なくて苦しい展開ですが、この先の二人信じて見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (
レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ゆうさん» お久しぶりです！もう、ウタゲ終わってキスブサもおやすみで、本当にニカ不足(・_・、) あ、でも、プレバトは、可愛かった！お話の方は、切ない展開ですが、リアル二階堂くんに癒やされながらがんばります！ (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - 由夏さん» ありがとう(ノД`)でも、ちょっと切なすぎる展開。二人が強く心を繋いでいてくれると信じて、書き続けます。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - amiさん» お久しぶりです(*´∀`*)ノamiさん。切ないけれど、お互いを求め、思いやる気持ちが伝わっていたら嬉しいです。思いやるあまりに少しずつズレてしまった思いが、この先、どうなっていくのか見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - chizuruさん» 秋の夜長のお供になれたでしょうか？こんな切ないシーンお供にしてもいいのかなぁ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。そして、どこか当てはまる歌詞が切なさの中に温かさを感じさせてくれる。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：植尾あい
| 作成日時：2015年7月23日 7時
