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それでいい ページ31

私の返事を待たないニカが、再びドライヤーのスイッチを入れると、指先が前髪をかき分けて額に触れた。

顔に当たるドライヤーの風に、目をつぶる。

ギュッとつぶって、それでも、目の前のニカから顔をそらしたりしなかった。


ドライヤーの音に掻き消されてしまうほどの声で答える。




「………ニカだけ、見てるよ。」




聞こえてないと思った私の声に、ニカの指先が一瞬止まった気がした。

すぐに乾いたはずの前髪に、いつまでも吹き付ける風と、優しく撫でるような指先が、震えてるのは、気のせいだよね?

ギュッとつぶった目は、そのままで、ドライヤーが止まるまで、ニカの指す『前』を見ていようと思った。




「………はい。オッケー。」


ニカの声に、ゆっくりと目を開けると部屋の明かりが眩しくて、何度も瞬きをする。



「ありがとう。」


「うん。ドライヤー、片付けてくるわ。」



何故かニカを見ることができなくて、ニカも私を見ないようにして、ドライヤーのコードを巻きながら立ち上がって背を向けた。

そのまま、リビングを出て行くニカを横目で追って、前髪を確認するように撫でる。

そこには、まだ、ドライヤーの温度とニカの指の感触が残っていた。





この部屋の全てに、



私の体の全てに、



ニカの気配と感覚が残ってる。





それは、



どこに触れても、ニカを思い出させて、



忘れることを許さない。





忘れるつもりなんてないから、それでいい。





それで、いい………。





ニカの座っていたクッションに触れて、その手をキュッと握った。


不意にスマホが震える音に手を引くと、クッションの脇に置かれていたニカのスマホ画面が光る。

そこには、



ー わかった



たったそれだけの素っ気ない言葉と、

『真紀ちゃん』

って、名前。



私の知らない、二人の会話。

詮索する気も、責めるつもりもない。



「どうしたの?」



リビングに戻ってきたニカが、私の視線の先を辿ってそう言う。


2人の関係に口出しなんてしないけど、見てしまったことを隠すこともしたくない。



「ニカのスマホ、鳴ったから。」


「あ?あぁ。」


「真紀からみたい。ごめん。見えちゃった。」



慌ても、怒りもしないニカが、スマホを手にしてメッセージを確認する。



「あぁ……、プリンおいしかったって、また買ってきてねって、メールしたの。その返事。」


「そっか。」




ニカが隠すなら、それは、私は知らなくていいことだよね。

二人きりの橋の上で→←二人の『前』



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植尾あい(プロフ) - 千明さん» if聞きながら?!私、自分の書いた妄想のくせに、それやると悲しくて涙ぐむんですよ……どうかしてる。祈りも最近やばいです。シーンタイトルにしちゃいました……切なくて苦しい展開ですが、この先の二人信じて見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ゆうさん» お久しぶりです!もう、ウタゲ終わってキスブサもおやすみで、本当にニカ不足(・_・、) あ、でも、プレバトは、可愛かった!お話の方は、切ない展開ですが、リアル二階堂くんに癒やされながらがんばります! (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - 由夏さん» ありがとう(ノД`)でも、ちょっと切なすぎる展開。二人が強く心を繋いでいてくれると信じて、書き続けます。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - amiさん» お久しぶりです(*´∀`*)ノamiさん。切ないけれど、お互いを求め、思いやる気持ちが伝わっていたら嬉しいです。思いやるあまりに少しずつズレてしまった思いが、この先、どうなっていくのか見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - chizuruさん» 秋の夜長のお供になれたでしょうか?こんな切ないシーンお供にしてもいいのかなぁ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。そして、どこか当てはまる歌詞が切なさの中に温かさを感じさせてくれる。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月23日 7時

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