君が思い出すまで5【煉獄杏寿郎】

212.離れていた時を埋めるように ページ12

　ガス灯の灯火が揺れる道を


　杏寿郎さんと歩く。


　その揺らめきが私の呼吸を急かすようで

　
　指の先まで血が流れるのを感じる。



　私たちが向かったのは、


　宿舎でも、煉獄家でもなく、炎柱邸だった。







　杏寿郎さんは屋敷の戸を開けると、

　先に中へと入り、私に手を差し伸べる。



「おいで。」



　私が手を取ると、

　玄関に入るや否や、杏寿郎さんは私をきつく抱きしめた。





　ああ、ずっとこうしたかった。


　その逞しい腕で、


　鍛えられた胸に引き寄せられては、


　あなたの背中に手を回したかった。
　



　ゆっくり身体を離すと、
　
　艶っぽい眼が私を捉えて離さない。



　
　杏寿郎さんは右手で私の頭を押さえ、

　左手を私の頬に添えると、

　何度も角度を変えながら口づけを交わす。


　
　離れていた長い月日を埋めるような情熱的な口づけに

　私はくらくらしてくる。

　

　
　静まりかえった家に、唇の触れる音だけが響いていた。







「…んっ」



　堪らず声を漏らすと、杏寿郎さんは一度唇を離し、


　私の額に自身の額をくっつけて熱のこもった声で告ぐ。



「…寝室へ行こう。」



　そう言うと私を横抱きにして寝室へと連れて行く。



　杏寿郎さんは私を褥の上に座らせ、


　自身の日輪刀を腰から外して置くと、


　私の方へと歩み寄り、褥の上に膝立ちになって


「…これを外してくれないか？」


　と言った。




「…え？」


　杏寿郎さんは妖艶な眼差しをこちらに向け、


　隊服のベルトに手を当てる。



「…ほら。」



　人のベルトなど、ましてや男性のベルトなど


　外したことなどなくて私は困惑する。



「困った君の顔も愛おしいな。」



「…で、できません。」



「できなくないだろう？


　やりもせずに言ってはならない。」



「…そういうことでは」


　杏寿郎さんは私が言い終える前に、


　私の手を掴んで自身のベルトに触れさせる。



「…君に外して欲しい。」



　私は仕方なく勇気を出して


　おずおずと杏寿郎さんのベルトに手をかける。




　緊張で震える指でゆっくりとベルトを外していく。






　ベルトを外す金属音だけが耳に響いて胸が波を打つ。





　するっと取れたベルトを手にすると、


　杏寿郎さんは私の手からベルトを取り、


　頭を撫でて優しく言った。







「…よくできました。」


　




　

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