桜の葉が散った後に。【笠松幸男】

cherry tree ９９ ページ9

中学生になった頃。



涼太が、近くの河原で泣いているのを見かけた。





かなり遅い時間で

部活帰りだった私は声をかけようとして

泣いていることに気が付いた。


きっと、幼い涼太にとって
何も言わずに家からいなくなる母親に、出て行った父親。

そんな家庭は、さぞ寂しく感じられただろう。



私は、「家に誰もいないのが当たり前」「一人なのは当たり前」

そう思っていた。

でも、本当は「寂しくなんかない」

そう自分に言い聞かせていただけなのかもしれない。




涼太の泣き顔を見たくなくて
その日は涼太を見なかったことにして、そのまま家へ帰った。


少しして涼太が家に帰ってくると

なんて声をかけようか迷ったけど、涼太はいつも通りだった。


今思えば、涼太はいつも笑っていて
泣いているのを見たのも、それが最初で最後だった気がする。



いつだって涼太は笑っていて

私自身、その笑顔に支えられてきたのは、紛れもない事実だった。



だからこそ、だろうか。




その笑顔が壊れてしまうのが、怖かったのかもしれない。


自分の、寂しい、なんて感情は捨てた筈だったのに







なんで









.









「ずっ…と」






「寂し、かった……」









.

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