桜の葉が散った後に。【笠松幸男】

cherry tree １０４ ページ14

「え、ほんとにやるの…？」

「当たり前っしょ！」


私に、涼太は携帯電話を押し付けてきた。

「ソーダンしたんだったらありがとうの電話しなきゃ！」

という涼太。


なんというか


電話だと、直接話す以上に緊張するんだけどな。


笠松さん、という文字を少し震える指でタップする。


無機質な呼び出し音が、私の緊張をさらにかきたてた。



『はい、もしもし』

直接聞くより、少し違う声。


「Aです！」


思わず勢いづいてしまった声に
後悔しながらも押し黙る。

『……ちょっとまっててください』

あれ？

何か、反応が……


『にいちゃん、Aさんだって」

ん？


電話の向こうで
大きな物音がした。


にいちゃんってことは、電話に出たのは笠松さんの弟君ってこと？



『ケホッ……悪い、今風呂入ってて』

さっきまでより少し低い声。

一瞬で、笠松さんだとわかった。
まあ、どちらも”笠松さん”であることに変わりはないけども。

息が切れていて、
大した用じゃないのに、悪いことをしたかも、なんて。



「えっと、今日はありがとう。

涼太とは、仲直りできました」

まあ、仲直りっていうのかどうかは分からないけれど。


『良かったな

……その

また何かあったら、言えよ』


少し控えめな言い方は笠松さんらしくて

「うん、ありがと」

笠松さんの力にはなれないかもしれないけど
笠松さんも、何かあったら私に相談してよ


なんでもいいから、なんて言えないけど

笠松さんの一番になりたくて。


でも、それを言う勇気はない

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