38 取り乱す ページ43
その後
すぐに
大野屋智三郎本人が
息せき切って大門の所に走って来たんだけど･･
いやぁ〜
もう
そん時の大野屋の取り乱しようったら
もー
本当にすごかったんだから！
どれぐらいすごかったか
まぁちょっと見てくださいよ！
・
「みやび！ みやびはどこだっ！」
と叫びながら駆けてきた智三郎は
もう顔が
いつものふにゃんとした智三郎とは全然違う！
目なんかつり上がっちゃってて
本当に人相が変わっている。
「大野さん･･！」
と
二宮が声をかけると
智三郎は
「みやびはっ？！」
一足飛びに二宮に飛びついた。
「みやびはどこだよ！」
すっかり頭に血が上った智三郎は
力加減がまったくできない様子。
ぐいぐい二宮の首を締め上げてるもんだから
二宮は窒息寸前！
それでも二宮が一つの駕籠を指さすと
智三郎は
二宮を突き飛ばしてその駕籠に突進していった。
そしてゴザをめくって中を覗いた途端
大野屋は
全身の毛を逆立てるようにブルッと大きく震え
「みやびっ！」
と叫んだ。
それもまぁ仕方がない。
なぜなら
駕籠ん中で
みやびが
つかまり紐に両の手首を括り付けられてるんだから。
その姿は
智三郎にはあまりにも衝撃的！
智三郎は
みやびの自由を奪っている細引き紐を
ものすごい勢いでむしり取り
「みやびっ！みやびっ！！」
ぐったりとなったみやびを抱きしめて
離そうとしない。
いつもは
春のそよ風みたいに穏やかな大野のこの取り乱しように
二宮は驚くやら困り果てるやら･･。
智三郎の気持ちも分かるが
いつまでもここでいる訳にもいかない。
「ちょ･･、ちょっと大野さん
ここじゃなんだからさ
どっか静かな所でみやびを休ませてやってよ。」
と言う二宮の言葉に
ようやく大野も我に返った。
「あ･･、ああ、それじゃあ、こっから一番近い引き手茶屋に･･」
と独り言のように呟くと
みやびを駕籠の中から軽々と抱き上げた。
そして
周りのことなんぞ全く目に入らない様子で
智三郎は
みやびをしっかりと自分の腕に抱えたまま
つむじ風のように
風を巻き上げ走り去って行った。
その智三郎の後姿を
大門の番人たちも
駕籠かき連中も
そして
一連の騒動を見ていた周りの客たちも
皆、ぽかーんと
狐につままれたみたいな顔して見ていた。
そんな中
二宮だけは冷静で
空になった２つの駕籠の後ろ
つまり
3番目の駕籠にスタスタ近づき
駕籠の両脇に垂らしていたゴザをガバッとめくった。
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
