花笑みのきみ (ページ42)

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37　吉原大門ページ42

吉原へは
江戸のどこから行くにしても
最後の最後は
南北に流れる大川から西へ切れ込む山谷堀沿いの
日本堤という土手の一本道を
駕籠か徒歩で行かねばならない。

なぜなら

吉原は江戸随一の歓楽街でありながら
民家・商家が立ち並ぶ町並みから遠く離れた
田園地帯のど真ん中にあったから･･。

右手に山谷堀を見ながら
テレテレと日本堤を進んでいくと
左に曲がる横道があって
そこを下っていくと
吉原唯一の出入り口である大門が見えてくる。

この大門をくぐると
そこは
夢の別世界！

本気の女郎買いや観光客や見物人がつめかけて
連日・連夜の大賑わい。

でも
ここ大門は
遊女の逃亡を監視する所。
ゆえに大門には
屈強な番人たちが常駐し、目を光らせていたのだ。

さあ、そこに

「どいたどいた、どいたぁ～っ！」

と
やかましく喚きながら
駕籠が３丁
早駆けに駆けてきたもんだから
番人たちは

「すわっ、何事ぞ？！」

と色めき立った。

自分たちの目の前で
ふざけたことはさせるまじ！
とばかりに
樫の木の警棒を手に手に握りしめた番人たちが
３丁の駕籠をぐるり取り囲むと
一つの駕籠の中から
目の覚めるようなイイ男が顔を出した。

てっきりならず者が殴り込んできたのかと思っていた番人たちは
カクッと拍子抜けしてしまったが
その番人たちに
くだんの色男が凜々とよく通る声で

「おいっ、私だ、二宮だっ！」

と自ら名乗って見せた。

ははぁ、確かに目をこすってよく見れば
こちらの色男は
吉原イチの大馴染み・戯作作家の二宮春涯先生に間違いない。

ここでやっと番人たちは
警戒を解いた。

番人のうち一人が

「先生、どうしやした？
こんなに急いてくるとは
風流人の二宮先生に似合わぬことで。」
と
言うと
早駕籠に酔ったか
青い顔した二宮先生
フラリ、駕籠から降り立って

「大野屋主人、大野智三郎を呼んできてくれ！」

前置き無しの大音声でのたまわった。

「今の刻限なら
別宅じゃなく妓楼の方に来ているはず！
みやびが、みやびが大変だって
調子が悪くなったって
誰か足の速い奴
今すぐ智三郎を呼びに行ってくれっ！」

巻き舌でまくしたてる二宮の
恐ろしいまでの剣幕に

こりゃ、ただ事じゃない！
と
番人の中でも一番機転の利く奴が
「合点っ！」
と叫ぶや

ばびゅんっ！！！

吉原の中央を貫いている仲の町と呼ばれる大通りを
矢のような速さで突っ切って
高級妓楼大野屋に駆けつけたって訳だ。