花笑みのきみ (ページ14)

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9　押し問答ページ14

はぁ、なるほど

世間の冷たさ、世知辛さ
見るに見かねて二宮春涯
引き取る覚悟を決めなされたか･･
と
智三郎は
さすがは天下の二宮先生！とひどく感心した。

「じゃあ、この子は先生が･･」

と
智三郎が
胸を熱くしながらそう言いかけたら
その言葉の最後まで聞かず
二宮は

「･･ってことで、あとはよろしく♪」

と
黒い風呂敷にくるまれた子どもを
智三郎の手に
ポンと乗っけた。

「えぇっ？！ちょっと？！」

いきなり
ちびっ子を押し付けられ
動転のあまり棒立ちになってしまう智三郎。

頼りないぐんにゃりした子供の体を
下に落っことさないようにあわあわしてる隙に
二宮は
ニヤリと笑って夕闇に溶け込むように
スルスル後ろにあとずさっていく。

「か、カズ！
お前が
この子を引き取って
育ててやるんじゃないのかい？！」

智三郎の必死の叫びに
二宮は涼しい顔でこう言った。

「私は気ままな一人もん。
仕事もあるし、子どもなんて育てられないよ。」

「そ、そんな、一人もんなら私だって同じ･･っ！」

と言いかける智三郎の言葉を

「私と違って
お前さんとこは女手がいっぱいあるじゃん。」

二宮は笑って遮った。

「お、女手って、うちにいるのは皆、遊女だぞ！」

智三郎の大声に

「ふみゃ･･ぁあ･･」

また幼子がむずかりだした。

「わっ、わわっ、泣くんじゃないよ、お前！」

今にも落っことしそうになりながら
さっきの二宮を思い出し
智三郎は
なんとか幼子を我が胸にかき抱いた。

「ああ、上手上手。さすが大勢の子どもを育ててきただけあるよ。」

と
からかっているのか本気なのかよく分からないことを言う二宮に

「うちにいるのは皆、遊女見習いだ！
こんな、男の子なんざ世話したことねえわ！」

とキレ気味に反論する智三郎。

しかしいくら智三郎がキレても
二宮には全然響かない。
涼しい顔して

「じゃあ、女の子として育てたらいかが？」

などと言う始末。

しかし

ぽろっとこぼれた自分の言葉が
気に入ったのか
二宮は一人で何度もうなずきながら

「うん、それがいいっ！」

と言っている、

「何がいいんだよ！」

智三郎が凄めば
二宮は瞳をキラキラさせてこう言った。

「いやいや、この子、あの高尾の子ですよ？
女の子だったら
どれだけ美しくなったでしょうかねぇ。」

その顔を見て

コイツがこんな顔をする時は
ロクでもないことを考えてる時なんだよな

智三郎は
げっそりしながらため息をついた。