花笑みのきみ (ページ13)

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8　みなしごページ13

「････それにしても、夫婦いっぺんに･･」

と
つぶやいた後
智三郎は
何かを思い出したかのようにハッと目を見開いた。

「ちょっ、ちょっと待った！
子どもは？
子どもがいただろ？
今年二つになる男の子、その子はどうしたんだい？！」

言いながら
智三郎は二宮の襟元をわしづかみにしたもんだから
二宮は体勢を崩し

「おっとっと･･」

抱えていた包みを落っことしそうになった。

･･と、その時
包みの中から

「ふみゃあぁ･･っ！」

子猫の鳴くような声が上がった。

わわっと驚いた智三郎が２，３歩後ろに後ずさり

「なんだよ、なんだよ！こんな時に猫なんぞ抱っこしやがって！」

と
驚いた自分をごまかすように大きな声を上げれば
二宮は

「･･猫じゃあありませんよ。」

と力なくつぶやいた。

その間も

二宮の手の中の包みはモゾモゾと動き

‥んっく‥、ひ‥っく

と、弱々しく泣き続けている。

「ね、猫じゃないなら、そいつぁ何だ？！」

智三郎がおっかなびっくり距離を置いて
包みを突っつくように指をさすと
二宮は
切なそうに目を細め
抱えていた包みの黒い布をはらりと解いた。

中から現れたのは
比喩でもなんでもなく、まさに玉のように美しい幼子。

「げぇっ！」

智三郎がヒキガエルみたいな声を上げると
二宮は
ふみゃふみゃ泣いてもがく幼子の小さな体を
器用に抱き直し
体全体を左右に揺らしてあやし始めた。

それが妙に様になっている。

しばらくゆらゆら揺すられているうちに
ぐずっていた幼子も泣き止んで
すう･･っと
再び寝入ってしまった。

「う･･、うまいもんだな･･。」

尊敬の眼差しの智三郎がそう言うと
二宮は
はぁっとため息をついた。

「この子が高尾の子だよ。
かわいそうに
たった一人残されちまって･･。
高尾も久三も縁者はいないみたいでね
葬式の時に近所の奴らが
みんなでこの子を押しつけ合ってて･･。」

二宮の言葉から
その時の様子は容易に想像がつく。

どこの家も食べていくのにカツカツ精一杯。
食い扶持を減らすために
苦界と呼ばれる吉原に
自分の娘を売らなきゃならないくらいなのだから･･。

そんな状況下で
誰が好き好んで赤の他人の子どもを引き取るだろうか？
そんな奇特な奴はいない。

「どこの家だって家計が苦しいのは分かる。
分かるけど
あんな様子を見てたら
どうにも黙ってられなくてね。」

二宮は
言いながら腕の中の幼子をそっと抱きしめた。