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「はい、五条くん」
「え、何? くれるの?」
「うん。甘いもの好きだったでしょ?」
私が差し出したシロップとミルクを受け取った五条くんは水晶を瞬かせて、少しはにかんで私の手からそれを攫った。
注文時に「シロップ二つ」と言っていた彼を見て、何だ。やっぱり変わらないな、と頬が緩むのを隠すように私は目の前のコーヒーに口をつけた。
「急だったのに、来てくれてありがとうね」
「ぜーんぜん。僕も丁度君に会いたかったし」
彼の何気ない一言でさえ、私の単純な心臓はときめきを告げる。
私はその場しのぎの笑顔で「それは良かった」と微笑むことしかできない。
その後の言葉を、告げるのが怖い。
一世一代の、大ウソつきにならなければいけない。
彼に挑む賭けのカードは、それなりの代償を払わなければならない。
負ければ私はきっと、今後二度と彼に友人面をして会う事なんてできなくなるだろう。
「あのね」、と切り出した時。
私を見つめる瞳は、サングラス越しでもきらきらと輝きを放っていて、まるで私の思惑なんて全部お見通しなんじゃないか、なんて気さえした。
「どうしても、お願いがあるんだけど」
「お願い―? 何?」
「2週間、私と同居してほしい」
「……は?」
「私の、浮気相手になって欲しいの」
「…………えーとつまりそれはどういう事かな?」
「今の恋人と別れたくて、こうでもしないと別れてくれないから」
彼は私の言葉を聞いてサングラスをかけなおすと、無言で甘ったるいであろうコーヒーを手に取り、ストローも使わずぐいっと飲み干した。
首を傾げて腕を組む五条くん。美しすぎる顔は表情が無いと人の2倍怖い。
「…何で僕? ずっと会ってなかったじゃん」
「五条くん以外、仲いい男の人なんていないもん」
そういうと彼は長いため息をついた。
……これは本当だもん。君以外に会いたいと思う人なんて、いなかったんだから。
それに、彼は断らない気がした。そう確信していた。
こんな面白そうなこと、昔の彼だったら二つ返事でOKしていただろうし、何より私の頼みを一度だって断ったことは無かったから。
自惚れには近かったけれど、サングラスを外して私を見つめる瞳は好奇心いっぱいに揺れて。
「うん、いいよ! 一緒にいればいいんだよね?」
「……! ありがと、五条くん!」
やっぱり。
私の決死の賭けは、とりあえずスタートラインに立てたみたい。
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時