【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

化け物への勧誘。 ページ5

其れからは、あっという間だった。



黒スーツの武装した男達に取り囲まれ、拘束されて、車の中に放り込まれた。



異能をもう一度発動させようとしたのだが、一度解除されて仕舞えば次の晩迄此れは使えないらしく、私に抵抗する術は無かった。



今は、青年と『樋口さん』に両脇を固められて、立派な車の後部座席に縛られている。



「首領。住野Aの捕獲が完了しました。・・・ええ、此れより拠点に戻ります」



『樋口さん』が、無線を使って、上司らしき人に連絡している。何をするでもなく腕を組んで座席に腰かけて居る青年を、私は睨んだ。



『貴方々は、何者ですか?・・・私を、捕獲して、如何する気ですか?』



「自己紹介が未だであったか」



青年は、闇を煮凝らせた様な瞳で私を冷たく見遣った。



「僕は、芥川龍之介。其処の小娘は樋口一葉」



青年＿＿＿＿芥川さんが、微かな冷笑の気配と共に云った。



「卑しきポートマフィアの狗だ」



ポートマフィア。



其の名前は、私でも聞き覚えがあった。横浜を牛耳る、凶悪な犯罪組織。



いよいよ背筋が冷え始めた。「危険異能者」である私は、彼等に消されて仕舞うのだろうか。



『・・・マフィアさんは、私を如何するつもりなんですか?』



芥川さんは、長い睫毛を伏せ気味に、此方を眺め、そして口を開いた。



「貴様の異能は類い稀なる破壊性を持つ。・・・尤も、自分でも気付いて居るだろうがな。其の力に、振り回されて来たのだろう?」



口調は相変わらず淡々と、だが何か確信の様な雰囲気があった。



自分の提案を突っぱねる筈が無いと云う確信。



「貴様をポートマフィアに勧誘する」



『は＿＿＿＿＿?』



信じられない言葉を聞いた。



・・・ポートマフィアに、勧誘?彼は、何を云っている?



「地下牢に閉じ込めるのも手間だ、此の場で返答を聞こう。・・・無論、選択肢等無いが」



『・・・犯罪者に成るか、殺されるか、今此処で決めろと?』



芥川さんの冷徹な視線に晒されながら、億劫に口を開く。



真面に会話が出来たのは、役者としての精一杯の演技でしか無かった。



青年は、そんな私を嗤う様に云った。



「判っているのだろう?貴様は最早、生きる意味を喪っていると」



・・・そうだ。私は“元”役者。芝居の出来なく成った私に、生きる意味等無い。



芥川さんの黒い瞳の中で、私の影が揺らめく。



「故に勧誘に乗れば、僕が貴様に、生きる意味を与えて遣ろう」

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