【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

役立たずと止血帯。 ページ22

黒獣の口が、私達の事を避難壕(シェルター)の様に覆った。



『・・・芥川、さん』



痛みで霞む目を必死で凝らす。彼は此方を振り返らず怒鳴った。



「無駄に口を開くな！役立たずの怪我人は黙って寝ていろ！」



役立たず、という響きに、心臓が浮遊する。また棄てられるのかという恐怖が、感情を支配する。



『い、いやです。未だ、棄てないで下さいっ・・・』



意思とは反して、情けない言葉が口から漏れ出る。痛みのせいか感情のせいか、判らない涙が霞む視界を滲ませる。



「・・・煩い！黙っていろと云っただろう、話すと無駄に体力を磨り減らすぞ！」



『・・・で、でも、』



私の口が尚も言葉を紡ごうとすると、芥川さんが苛立った様に異能を発動させた。



「っ、羅生門！」



其の瞬間、首筋に凄まじい痛みが走る。



「・・・雑魚共が・・・一匹たりとも、逃がしては置けぬ」



芥川さんの低い声でそんな言葉が聞こえ、其れと同時に私の意識は徐々に遠退いて行った。



***



芥川side



誰かを守りながら、敵も殺さずに仕留めるのは、とてつもなく難しい所業だった。



空間断絶と、鞭を象った羅生門だけで戦うのですら難しい。其れに加え、後ろには僕が気絶させたAが居るのだ。



其れ故に、戦闘が終わった時には、久々に疲労を隠しきれなかった。腕や脇腹に、幾つか断絶しきれなかった銃弾が中ったのやも知れぬ。



だが、僕の事は後回しだ。先ずはAを如何にかせねば。



「樋口、止血帯はあるか」



「此方に」



樋口が差し出した止血帯を引ったくる様に受け取り、Aの肩に巻いて応急処置をする。本格的な手当は出来ぬ故、医務室で行って貰う。



「・・・手間の掛かる小娘だ」



舌打ち混じりに呟き、同時に自分に苛立った。



此奴が異能無しでは戦闘において弱者だと云うことは、判っていた筈だろう。何故此奴を使った。



当然答えは返って来ない。僕は溜め息を着いて、Aの事を背負った。



無線を入れ、中原さんに連絡する。



「任務完了。只今帰還します」



「お疲れさん。今から捕虜回収用に部下送るから、一寸待ってて呉れ」



「了解」



無線を切り、敵拠点の外に出た。其の時視線を感じて、ちらと其方を見た。



僕と同い年程の黒髪の男が、此方を凝視していた。



目を逸らさずにいると、其奴は僕に近寄り、話し掛けて来た。



「・・・Aの匂いがする。アンタ、何者?」

避役俳優と禍狗。→←命のやり取りと銃弾。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す