43. ページ43
西本陽子
.
カキーン
金属音が響きわたるバッティングセンターで、私は結局好奇心を抑えきれずにバッティングをしている白河くんの後ろできょろきょろと辺りを見回した。
緑の網で区切られたそこで、学生の男の子たちがバットを振っている。
中でも白河くんは素人目から見ても圧倒的に上手くて、私は一人で彼の背中を見つめていた。
.
「………あんた、帰んないの」
「へ?」
気が済んだのか、汗ばんだ首元を拭きながら白河くんがバッターボックスから出てくる。
私の前に立つと、相変わらずの鋭い目で私を睨んでいる。
「え、あ、ごめんなさい!邪魔ですね!帰ります!」
「別に、邪魔じゃないけど、見てたって楽しいもんじゃないだろ…」
「………いや、面白いよ?」
「あ…そ」
「よく来るの?ここ」
「時々」
「カルロスくんも?」
「…………そんなに好き」
「そんなに好きです」
呆れたように私を見る白河くんに、ぎゅっと拳を握り締めながら頷く。
あ、私は何を言ってるんだと、顔が赤くなっていくのがわかる。しまったと頭を抱える私を見ると、白河くんは口元を押さえながら歩き出した。
「…………白河くん…今…」
「笑ってない」
「笑ったよ!」
「うるさい黙って」
私はおとなしく黙って彼の隣を歩き出す。
いつの間にか火照った頰は元に戻って、逆にだらしなくほっぺの筋肉が緩みだした。
笑ってた。
言ったら怒られるけど、今、絶対笑ってたよね、白河くん。
なんだか嬉しくなって、にやにやしていると、振り向いた白河くんにドン引きされた。
「白河くん、今日はありがとう
休みの日に付き合ってくれたのも………あと、カルロスくんとのこと頑張れって言ってくれたのも、嬉しかったから」
「…………」
「あの!白河くんは私のこと嫌いかも知らないけど、私は今日は楽しかったので!」
「…………あんた」
「西本陽子」
「は?」
「西本陽子です」
白河くんを見上げて言えば、ばっちりと目が合う。
本日初めてかもしれない。
睨まれることはあったけど、こうしてちゃんと、目を見て話すのは。
白河くんは、圧倒されたように目をそらす。
「……………別に、西本のことは、嫌いじゃない」
「え?」
「カルロスも…………西本も、悪い奴じゃないから。………頑張れば」
「……………ありがとう!」
白河くんも、悪い奴じゃない。
最初にもった偏見を心の中で謝りつつ、私たちはバッティングセンターを出た。
645人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「アニメ」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ