【◇】私と成宮 (ページ35)

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その週末、4人でのデートとやらの日がやってきたのだけど、家を出ようとした時、うちの家の電話が鳴り響く。

良太に見張られながら靴を履いていると、お母さんが電話を片手に私のところにやってきた。

「A、電話」

「え？誰？」

「成宮くん」

「は？」

相変わらずの良太の目線を感じながら、受話器を受け取って耳に当てた。

「もしもし」
「もしも………」

言い終える前に、ごほごほと咳き込み始める成宮。

「ちょっと、大丈夫？」

「…ごめん、風邪ひいた」

「………うん」

「………這ってでも行こうと思ったんだけど、雅さんにとめられて…」

「うんそれは止めるよ」

呆れながら言えば、成宮が咳き込みながら小さい声で「ごめん…ごめん……」と謝っている。
珍しく弱々しい成宮に拍子抜けして、「…わかった。お大事に」と言って電話をきった。

「良太、成宮、風邪ひいたから行けないんだって」

「…まじ？」

「うん。だから今日は図書館に……」

「……………….ねえちゃん」
「なに」

一瞬残念そうにした良太はハッとしたように台所の方に駆けていくと、なにやらごそごそとしていたかと思えば、トートバッグを私に突き出す。

「…なにこれ」

「お見舞いセット！」

「………」

「…ほら」

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稲実野球部寮前。

良太に持たされたカバンを重々しく下げて、寮を見つめる。一人で入る気にもなれなくて、そこで立ち往生していると、前から響く聞き慣れた声。

「中野先輩…？」

「………多田野くん」

「どうしたんですか？」

「…お見舞い」とカバンの中身を見せて言えば、彼はぱぁあっと顔を輝かせて私にマスクを突き出す。

「助かります！ちょっと今ヤバイんですようちの寮！」

「………え？」

「とりあえず来てください。歩きながら話しましょう」

マスクをつけると、嬉しそうに歩き出す多田野くんの背中を追いかけて隣を歩く。

「なぜか、寮の中で風邪が大流行してしまって…」

「……へぇ」

「鳴さんを筆頭にほとんどの人が風邪ひいてて…俺は大丈夫なんで必死に看病しているところです」

「……ご苦労様です…」

「で、先輩。

一番の問題児はもう先輩にお任せするんで！あとよろしくお願いします」

『エースの部屋』なんてかけられた一度は眠りこけて入ったことのある部屋の前に、一人取り残されて、ただただマスクの下で苦笑いを浮かべるしかなかった。

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