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懇話ってなに ページ44

ひゅる、と耳元を風が通り抜ける。いや、この場合は僕が風の間を通り抜けてるのか?

飛んでるみたいなんて考える間もなく、すぐに膝をまげて着地する。両手で掴んだタオルケットがマントのようにふわりと翻った。



未亡人みたいにふらふら歩いて、踊り子みたいにくるくる回って。暫く踊ったけれどステップを間違えて足がもつれた。

ああ、飽きちゃった。

道化師みたいに態とらしくよろけて、俳優みたいにドラマチックに背中から倒れ込んで、死人のようにピクリとも動かなくなる。



そのまま大の字に寝ていると頭上から心地いい声が降ってきた。



「随分戯曲染みた舞いだな」



顎を上げてそちらを見ると、普段よりラフな格好をした寮長がこちらを見下ろしていた。

たっぷりとした髪が朝日に照らされて柔らかく茶色に透ける。心做しかまとう雰囲気も穏やかだ。表情には嘲笑も挑発もなく、ただ淡々と感想を述べたらしい。



『まさか。戯曲だなんて、芸術の名を借りるのも烏滸がましいですよ』



朝の散歩ですか?と問えば、目が覚めちまったと頭を掻いた。

鮮やかな緑の瞳は大地の生命力を宿しているように思える。吸い込まれてしまいそうだ。

ずっと見ていても首が痛いので、楽な姿勢になって目を閉じた。



『…昨日の試合見てからずっと考えてたんだ、なんであんな卑怯なことしたのかなって。寮長結構愛されてるのに』

「……それは勝ったときだけ褒め称える観客共のことか?」

『違いますよ。なんで協力したのってセンパイに聞いたら、寮長に憧れてるからだって』

「勝手に美化してんだろ」

『そうなのかも』



何が言いてぇと怪訝な顔だ。正直自分でもよく分からない。



『ただちょっとセンパイに共感したってことは、僕も結構寮長のこと好きなんだなぁって』



虚をつかれたように目を見開き、暫く黙ったあと鼻で笑い、口を開いた。



「俺は覚えちゃいねぇが、ラギーの話じゃ俺と戦って腕切ったらしいな。少なくとも俺はそんなヤツ好きにはならねぇよ」

『知らないですよ、僕だって何でかわかんないんだから』

「はぁ?」



両足を上げて勢いをつけ、武闘家みたいに跳ね起きた。



『それにその辺はあなたのご尊顔を思いっきり蹴れたから気にしてないです』

「お前な……」



ラギーセンパイとのやり取りを見てわかった。寮長は横柄で俺様だけど、振り回され気質のようだ。





月は光らずとも、明るくなった空に、静かに、確かに佇んでいる。

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作者名:くろかは | 作成日時:2020年3月24日 15時

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