秘密9 ページ9
「いらっしゃいませ、………ご、ご主人様」
「おいおい、ちゃんと言えよ何やってんねん」
目の前には王様の中の王様……志麻くんがドカッと椅子に座っていた。ニヤニヤと笑いながら私を見つめる志麻くん。…くっ、残念なイケメンだ。
なるべく目を合わさないように個室へ案内する。たったと終わらせて早く出よう。だけど志麻くんは上手くいかない。
「やっぱ、似合うなぁ」
「……全然褒め言葉じゃないです…」
「え?めっちゃ褒めてるつもりなんやけど」
メニューをぶっきらぼうに見せると志麻くんはこっちを見てまたニヤリと笑う。出ていこうとすると『おぅい』と声をかけられた。あぁ、背筋がぞくりとする。
営業スマイル…に圧をかけて振り向くと志麻くんはそれにも目もくれずに渡したメニューをヒラヒラと揺らした。
「…メニュー呼んでや」
「っヒィ、志麻くんってそういう趣味なんですかホントに!!」
「え?Aの反応おもろ過ぎてつい」
ここのメニューは明らかに頭イカれている。いや、可愛い子が言ったらトキメキの集まりの言葉なのかもしれないが、髪の毛をカールにして、してはいけない化粧で素顔を隠した人間が、この大魔王の前でメニューを読むなどただの地獄絵図に過ぎない。
「……えと、別の人呼んできま…」
「Aがいいねん。…お前がええねんよ」
「っ、……!」
突然の私の指名に何故かドキリと胸が跳ね上がった。…これは、なんだろう。暴れる心臓を抑え隠しながら悟りでも開いたかのように淡々とメニューを早口で呼んだ。
火山の噴火前みたいにかぁっと上り詰めてくる熱さを顔に感じる。絶対目は合わせないでメニューの文字だけを見つめた。
「顔真っ赤…んじゃあこれで」
「……ッ!早く帰ってくださいね?!」
「それはどうかなぁ」
携帯を取り出してまた写真を取られた。逃げたつもりだったけどバッチリ撮られてたみたいだ。
ほかのバイト仲間も私の彼氏だと勘違いして謎にシフト入れるし…本当に迷惑な人達だ。私が好きなのは、坂田くん一筋だと決めているのに。
「何時に終わるん?…待っとくけど」
「一人で早く帰るという選択肢はないのでしょうか。」
「暗い中女の子一人はあかんやろ。死にたいんかお前」
冷たいけど何故か暖かい彼に、惹かれてしまっているのに気付いたのはいつ頃だろう。私はいつの間にか彼のその目をしっかり見つめていた。
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