秘密4 ページ4
「……ぇ?」
は、と世界が止まった気がした。この世は理不尽だ。…否、これも私の幻覚か何かなのかもしれない。
でもこの人とたった数分しか喋ってないけど分かる。このまま条件を呑まなければ確実に3秒で学校中に…いや、日本中に知れ渡るだろう。
確か、この方坂田くんと仲良かったよね?下手したら最初に坂田くんにわざと回すだろう。
そしたら距離置かれるし、変な目で見られるし…というかバイトしてたら停学か退学か!今までの苦労は一体どこに!
「___…ぃ、Aさん、おい、」
「っは、すみません。困惑してました」
「…あ、そう。んで、どう?交換条件」
王様は偉そうに頬ずえをついてじっと見つめてくる…この答えはひとつしかないんだ。
「分かりました。呑みます」
「…敬語やめろ」
「え、すみません」
「すみませんやめろや」
「ごめんなさい」
「それも敬語やん」
ムスッとする王様。私はペコペコするばかり。何だこの地獄。早く帰りたい。沈黙が流れキョロキョロを視線を泳がしていると上から声をかけられる。まだあるのか話。
「…名前」
「え?」
「下の名前なんて言うん」
「Aですけど何か」
「A、教室戻るで」
「ヒッ、やめてください」
坂田くんにも呼ばれたことないのに…初めて男に下の名前で呼ばれて身の毛がよだつ。王様はまたモヤモヤした顔で眉を寄せた。この人ちゃんと優しく笑うということがあるのだろうか。
抜けない敬語はあなたの威圧のせい、なんて言ったら怒るのだ。
******
___と、交換条件を結んだはずなのだが。
坂田くんに会わないのは精神的にくる。好きな人に話しかけられないのが、会えないのが、どれだけ辛いことなのか王様は知っているのだろうか。
その無関心そうな紫の瞳で庶民を見下ろすのか。
しかも坂田くんも坂田くんでこのことを知らないのだ。
元々1年生の頃から勉強を教え合う仲だったわけだし、坂田くんが尻尾をしょげさせクゥンと鳴く仔犬しか頭の中に出てこなくて、…優柔不断な人間が急に冷たくするなんて出きっこなかった。
「A、ここの問題教えて貰ってええ?」
1人で頭悩ませているところでも、坂田くんは天真爛漫な笑顔で数学の問題プリントを見せてくるのだ。ゆらゆらと心の天秤が左右に揺れる。ガタン!と心の天秤が傾いた。
「……ぃ、いいよ、教えてあげる」
歴史で習ったはずだ。
絶対王政の世界なんて早く終わるんだって事を。
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