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拾壱 ページ12

あれから私は、扉間様がいらっしゃるとAよりも先に声をかけて、書庫までお連れするようになった。
おかげで、毎日のように扉間様とお話をする機会ができた。

でも、二人きりになると、どうしても緊張してしまう。
会話が、なかなか続かなくて。
なかなか、笑顔になれなくて。
素直に、気持ちを表せられずにいた。

扉間様の目は、いつも真っ先にAをとらえる。
その瞳に、私は映らない。

苦しくて。
素直になれない自分が嫌いで。
扉間様、私を見てって。
家に帰ると、一人で毛布にくるまって泣くことが増えた。
こんなに、扉間様のことが好きなのに。
ずっと前から、好きだったのに。

---

それは、まだ私が幼かった頃のこと。
家にぬいぐるみを取りに帰って戦から逃げ遅れた私は、一人で泣きながら山道を走っていた。
避難所までは、まだ遠い。

近くで、刀がぶつかり合う音がする。
その鋭い音が耳に響いて、怖くて、怖くて。
また目から新しい大粒の涙が流れ出す。
その時だった。

「火遁!鳳仙火の術!」

男性の大きな声があたりに響いたかと思うと、ゴオッっと音がして無数の火の玉が飛んできた。
術者のターゲットはそれを避けたらしく。
その火の玉のうちの一つが、私の方へと飛んできた。

迫りくる火の玉に、足がすくんで。
もう死ぬかもしれない、と目を固く閉じ、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた瞬間。

「水遁・水龍弾の術!」

低く、よく通る声がして。
閉じていた瞼をゆっくり開けると、水龍が火の玉に襲い掛かり、あっという間に消してしまった。
青い鎧、白い髪に白いファー、たくましい背中。
私と歳もそう変わらなさそうな、少年。

「早く逃げろ!」

振り向いたあなたの赤い瞳は、美しくて。
恐怖から救ってくれたあなたに感謝しながら、私は安堵の涙で顔をぐしゃぐしゃにして避難所へと走っていった。

避難所についた後、胸をドキドキとさせるこの感情の名前を知るまでに、時間はそうかからなかった。

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設定タグ:NARUTO , 千手扉間   
作品ジャンル:恋愛
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K(プロフ) - あとがきを読んで泣いてしまいました...貴方様のお陰で、なんだか少し救われたような気持ちになりました。重たい感情で申し訳ないです...この作品を書いてくださってありがとうございます!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 29a0737890 (このIDを非表示/違反報告)
maho(プロフ) - 本当に素敵なお話でした!とても面白かったです! (2020年8月5日 14時) (レス) id: ad2d13c9c0 (このIDを非表示/違反報告)
夜神 零彼 - もうなんか凄いですね! 感動しました!最後のしまりが良かったです! (2020年4月3日 17時) (レス) id: 84e498c4cd (このIDを非表示/違反報告)
如月 - おぉ!ありがとうございます!(*´∀`*) (2019年1月18日 22時) (レス) id: 699e158105 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - 如月さん» ありがとうございます!なるほど、何か短いものを、思いついたら書いてみますね〜! (2019年1月5日 22時) (レス) id: a22cf2b507 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:東雲 x他1人 | 作成日時:2018年5月14日 8時

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