すいーと ページ2
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ちん、という聞きなれた音と共に、甘い匂いが広がった。焼き加減と生地の厚さは、完全に彼の指示通りだ。それでも、食べ易い厚さであることはわかるし、焼き過ぎず焼かな過ぎずの、丁度いい物だと言うこともわかる。何も見ずにそう言っていたから、本当にお菓子作りが大好きなのだろう。
「 …やっぱ俺、天才的ぃっ…♪ 」
そんな小さな声が聞こえた。可愛いな、何て。そんなことを思ってしまっては、その思考を隅に追いやって。
「 美味しそう……丸井くんの指示通りにやったから、こんなに綺麗に出来たんだと思う。丸井くんは、天才だね! 」
言の葉を、口にする。紛れもない本心だ。それに彼は嬉しそうに笑って“ あんがと ”何て返すから、わたしも笑い返してみた。視界の端の白髪が驚いた様に此方を見遣る。それを知ってかは知らないが、丸井くんがニヤリと笑って此方を見た。二人に向かって首を傾げて見せて、何も知らないふりをする。……さっきから止まない胸の高鳴りはきっと、完成したことの興奮からだ。この感情は、恋なんて、そんなパステルカラーな綺麗なものじゃない。もっとドス黒い色をした何かだ。
「 ……お菓子作り、趣味なの? 」
「 …もしかして知らなかった?割と知ってるかと思ったけど……まぁ、そうだな 」
「 通りで、こんなに上手く出来るのかぁ。これ、自己流アレンジ入ってたよね?そこ含めて、今度教えてほしいな。レシピだけで大丈夫何だけど、 」
「 ん、明日辺りに……っておい仁王っ、邪魔すんじゃねえっ 」
違和感を感じて横を見やる。……わたしと同じ姿をしたナニカが、わたしに抱き着こうとしている。
「 ……まぁくん、何してるの? 」
「 ひぇっ、じ、冗談ぜよっ!!! 」
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作者名:乃愛 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年1月1日 20時