しがない葬儀屋ですが【伏黒恵】

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『お客さんかな？いらっしゃ〜い』



目の前を黒猫が横切り、背後から風が吹き抜ける



振り返ると先程までの路地裏は潰え、高い青空と何もない空間だけが渦巻いていた



………境界か、なるほど



先程とは一転、生物で満ちているのに死の気配しか感じなくなっていた



俺が会いに行こうとしていた人物、石蒜A



そいつの足元や膝元には黒猫が擦り寄り、地面には薄い水が張っていて、更に赤いヒガンバナが風に揺れている



果てしなく続く、水だけ張って何も無い空間と、その中にぽつんとあるこの場所



「………彼岸と、此岸」



正確にはあの世とこの世。



その境目って所だろう



妙なところで商売してんな…



『誰の葬儀かな？とうとう五条先生が死んだ？』



「呑気なもんだな」



『口の効き方には気をつけなよ、少年』



あんたと1個しか変わんねえよ、という言葉を飲み込む



石蒜Aの足元にのみ咲く花からなのか、本人からなのかは知らないが、強い花の匂いがした



黒猫やら蝶やら侍らせて楽しいのか？



パラソルのついた机でティータイムなんて、葬儀屋にあるまじき緊張感のなさだ



ましてや高速でスマホの画面を叩いている、最近流行りの音ゲーかなんかだろう



…ここ電波あるんだ？



『回りくどいやり方やめよ？ほら座って座って』



「客を地面に座らせるな」



『だーかーら、私先輩だよ〜？
もうちょっと敬意を払ってもらわないと…』



「先輩って…あんた葬儀屋だろ……」



追加で突っ込もうとしてやめた。脱線してしょうがない



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