酒場のマスターはトリッパー II

80杯目 ページ34

「なんじゃと!?」

「私もびっくりしたよ。痣が浮かんで異能にかかっていたのは知っていたけど、人に襲われる幻覚くらいたいしたことないと高を括っていたら・・」

(まさかあんなものを見せられるなんてねぇ)

「いやー甘かったね！」

「随分と威勢がよいのぅ」

「空元気だよ、結構痛いとこつかれてさ・・」

「ふむっ・・」

「姐さん、はさ。自分の好きな人だけから愛されたいって思うのってどう思う？ やっぱりこういうの自分勝手なのかな？」

姐さんは眉をひそめ首を傾げて言った。

「何故じゃ、好きな者から愛されたいというのは至極当然のことじゃ。それを自分勝手とは、随分と偉そうな物言いじゃの」

「！」

「何を思おうがそれは個人の自由。誰にも咎める権利など無い」

「姐さんっ・・・」

「そのようなこといちいち気にするでない。自分に正直に、のぅ？」

「・・・ありがとう、姐さん」(ニコッ)

「やっと"笑えたの"」

姐さんとの長いようで短い談笑はこれにてお開き。

私は部屋のポットからお湯を出してそれを顔へとぶっかけた。

驚く姐さんに

「景気づけ」

と笑って言った。




鏡の中の私の目はもう曇ってなどいなかった。

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