第212話:嫌悪感 ページ22
私から伝える内容は、大部分が眞鍋くんとの会話だ。逃走劇の話は手短に、語るべきは彼の軽薄な口からもたらされた情報だろう。
彼に持ち掛けられた提案。
はぐらかされたこの誘拐の目的と黒幕。
私に対する執着。
小学生の時のあの事件が眞鍋朝人の仕業であったこと。
呉原との関係と、眞鍋朝人の正体。
一つ一つ思い起こす度に網膜に記憶された映像と体に残る感触がフラッシュバックして、想定していたよりも全くスムーズでは無かった私の語りを、赤司さんは時折「ああ」とか「うん」とか、短く相槌を打ちながら静かに聞いていた。
私が眞鍋くんからされたこと、は、口に出せなかった。
言葉としての情報、会話の内容を喋るだけでいっぱいいっぱいで。
口にすればきっと、悪寒や震えなんかでは収まらない。
赤司さんはそれも分かっているはずで、追求はしてこなかった。
あくまで淡々と情報を飲み込み、整理しているように見えた。
隣にいる赤司さんの顔を見れず、握りしめた手だけを見て俯きながら喋り続けた私が、漸く顔を上げて見ると。
「ーーーーーーっ……、
なん、……」
なんて、
顔をしているのかと。
口をついて出そうだったその言葉を、寸前で呑み込んだ。
思わず口許を塞ぐように手をあて、ごくりと唾を呑み込む。
じんわりとふきだした汗でシャツが背中に貼り付いている。
姿勢正しく真っ直ぐ前を見据えていた赤司さんは、握った手から私の身動ぐのを感じ取ったようで、はっと我に返り手を離した。
多分そこまで、私の話が終わったことに気付いていなかった。
「ーーーーごめん……、……いや。
今僕は、随分と酷い顔をしていたか。
Aに見せられるような顔じゃ、なかった。
忘れて欲しい、」
そう言いながら両手で顔を覆う。
眉を顰め、歯を食いしばり、苦虫を噛み潰したよう…なんて表現はよく聞くけど、そんなものでは無かった。
苛立ち、憎悪、苦しみ、悔しさ、そういった黒い感情を煮詰めたような。
見た私の方が、辛くなってしまいそうなほど。
赤司さんでなくとも、誰が他人に見せたいと思うだろうか。
「は、どうにもAのこととなると僕は自分の感情をコントロールできなくなるらしい。
実際に辛い目に合ったのはAなのに、」
はぁ、と嗤うような溜息を一つ吐き出す。
天井を仰いだまま、両手を降ろして。
「眞鍋朝人と僕はーーーー似ているのだろうね。」
ぽつりとそう呟いた。
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Mae(プロフ) - ?? ??さん» わー!嬉しいコメントありがとうございます!遅くなりましたが続編もぜひお楽しみ頂けたらと思います!^^ (2022年4月19日 19時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
?? ??(プロフ) - つい一気読みしてしまいました、、くっそ面白かったです続き待ってます!!! (2022年4月9日 21時) (レス) @page47 id: faab22f8d0 (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - ルカさん» お待たせしてすみません!汗楽しみに待っていて頂けて本当に嬉しいです!!(*ˊ˘ˋ*) (2022年1月20日 3時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - やはりMaeさんは神だ…!更新ありがとうございます! (2022年1月16日 21時) (レス) @page46 id: e645865379 (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - ルカさん» 神!?笑コメントありがとうございます!書き溜めておりますので暫しお待ちを!かっこいい赤司くん書けるよう頑張ります(^^) (2022年1月8日 16時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2021年3月17日 2時