第209話:洋室 ページ19
コンコンコン。
控えめに3回ノック、すぐに「どうぞ」と返ってくるのを聞いて、一昨日の部室でのことを思い出す。
なんだかデジャブ。
周りに人がいないのを確認して静かに体を扉の内側に滑り込ませれば、短い廊下の奥には洋室のワンルームが続いていた。
他の部屋は和室だったけど、ここは勝手が違うらしい。
と言ってもシンプルなベッドとその隣に書き物机とソファのセットがあるだけで、簡素なレイアウトではあるのだけど。
赤司さんは部屋の中央、ふたつあるソファのうちのひとつに腰掛けていた。
彼がそこにいるだけで何故か高級な家具のセットに見えるから不思議だ。
「話があるんだったね。
内容は予想がついているけどーーーーまずは手当てからだ。
こっちに座って。」
対面のソファに座ろうとした私を制し、ベッドの方を指さす。
見れば彼の足元には救急箱が置いてあって、よくよく見慣れたそれはバスケ部のものだったから使うには気が引けるけど……赤司さんの様子からしてちゃんと手当てをするまで話を始めてくれそうにない。
私が大人しくベッドに座る間に、赤司さんはてきぱきと絆創膏や傷薬を出していく。
「…生傷のまま風呂に入っただろう。入浴時間が決められている上に疲れているとは言え…感心はしないな」
「す、すいません…」
「黴菌が入ったり傷が残ったらどうする。」
ぐうの音も出ない。
申し訳ございませんでした……。
私にお小言を申し立てながらも手が止まることはなく、膝下の擦り傷や痣から小さな傷跡まで丁寧に観察して、適切な処置を施される。
目敏い彼によって、私自身が気付いてなかった所まで。
よく見れば本当に全身傷だらけだ。
けれど左腕に移った時、赤司さんはふとその流れるような治療の手を止めた。
私の左肘下には、唯一既に治療された跡がある。
しっかりと大きめの絆創膏で覆われたそこは、もう瘡蓋になっていて痛みもないけれど、体育祭で転んだ時の傷跡だった。
「…あの時もこんな風に手当してもらいましたね」
沈黙に耐えきれずそんな風に零せば、
「そう、…だったな。」
赤司さんがトーンの落ちた声で言う。
「っでも、もう全然痛くないですよ。赤司さんが適切に手当てしてくれたから治りも早い気がします」
彼の急に変わった様子に慌てて付け足せば、作業の手を再開させながら赤司さんは言う。
「…お前は……、僕と出会ってから怪我をしてばかりだな」
「……! そんなこと、」
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Mae(プロフ) - ?? ??さん» わー!嬉しいコメントありがとうございます!遅くなりましたが続編もぜひお楽しみ頂けたらと思います!^^ (2022年4月19日 19時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
?? ??(プロフ) - つい一気読みしてしまいました、、くっそ面白かったです続き待ってます!!! (2022年4月9日 21時) (レス) @page47 id: faab22f8d0 (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - ルカさん» お待たせしてすみません!汗楽しみに待っていて頂けて本当に嬉しいです!!(*ˊ˘ˋ*) (2022年1月20日 3時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - やはりMaeさんは神だ…!更新ありがとうございます! (2022年1月16日 21時) (レス) @page46 id: e645865379 (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - ルカさん» 神!?笑コメントありがとうございます!書き溜めておりますので暫しお待ちを!かっこいい赤司くん書けるよう頑張ります(^^) (2022年1月8日 16時) (レス) id: d276010101 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2021年3月17日 2時