太芥『星空』 ページ44
◆
嘔吐表現注意、黒の時代。
♀♂
小さなビーズを散りばめたように星が点々と光る空。それを背景にするようにして笑う１つの月。それは暗い横浜の夜を明るく照らしていた。
そして星空に対抗するかの如くこのバーには、店内の優しい照明が外の路地まで輝きを放っていた。
と、バーの出口から鳶色の青年が白く病弱そうな少年を背負って出てきた。背負われている少年はぐったりとしている。
白くきめこまやかな肌と長くて黒い睫毛がよく目立っていた。鳶色の青年もまた、すれちがえば振り向かぬ人はいないほどに整った顔立ちだ。が、青年、太宰治は心底呆れたような表情を浮かべて外灯と星空の照らす薄暗い路地へと吸い込まれて行く。
太宰が向かったのは横浜を縄張りとする凶悪犯罪組織、ポートマフィアの域の掛かったマンションである。
太宰は少年、芥川を背負ったまま自室の前で止まった。
器用に扉の鍵を開け中に入ると、壊れ物を扱うかのように芥川を自室の寝台へと下ろした。
「全く、安吾も織田作も芥川君に飲ませ過ぎなんだよ…」
誰に向かって言うわけでもなく太宰は呟く。だが芥川へと視線を戻すと、黒く大きな瞳を虚ろに開けていた。
「起きたの」
太宰の声に肩で反応した芥川の顔色は死人のように悪い。太宰は少し早めの歩調でキッチンに行きコップに水を注いだ。
コップを芥川の寝台の方まで持って行き声を掛ける。
「飲んで」
「ぅ…はい…」
コップを差し出せば細い両手を伸ばし、上半身を起こして受け取ろうとする。
だが芥川がコップを受け取ろうとしたその刹那、
「っ！」
芥川が口元を抑えトイレへと駆け出した。芥川は何度かこの太宰の部屋に来たことがあったため、何処に何があるかは一応把握している。芥川は鍵も閉めずに便器に向かって激しく嘔吐した。
あまり食べていなかったからか、勢いに任せて出せば殆どが胃液だった。
「芥川君っ…」
太宰の焦りを含んだ声が後ろから聞こえた。振り向こうとするがまだ吐き気は収まらない。
「芥川君、深呼吸して」
太宰が焦りを押し殺し、到って冷静な声をあげる。芥川は素直に応じた。
呼吸も整い吐き気も無くなって来た頃、糸が切れたように芥川はまた倒れた。
「あーもう、何処まで心配させれば気が済むんだい？」
太宰は芥川の額を小突き、また寝台へと運んだ。
♀♂
続きは家出しました。
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どろっぷ - 本当に好きです！！！最高すぎます！！！ (2021年10月9日 18時) (
レス) @page28 id: 33730d6852 (このIDを非表示/違反報告)
雪音永遠 - 最高です。いつも影ながら応援してます！頑張ってください！（なんか上から目線ですみません） (2019年5月13日 19時) (レス) id: 0221d79259 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - シャルさん» ありがとうございます！嬉しいお言葉です…頑張ります！ (2017年4月22日 1時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
シャル - 最高すぎて辛いです。はい。もうやばい)^o^( (2017年4月8日 15時) (レス) id: a82ccaf05f (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - 藤見日和さん» ありがとうございます！！続編でもよろしくお願いします！！ (2017年3月26日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なかゞわとまと | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/TOMOTO/
作成日時：2017年2月21日 22時
