結論、これは恋ではない。 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:37,679 hit

11.グミの贈り物ページ11

｢これは受験勉強を手伝ったお礼品なんだ｣
｢お礼品｣

｢うん。去年の夏に同じ中学の後輩が『どうしても同じ学校に入りたいから勉強見て欲しい』って頼んで来たんだ。最初は自信ないからって断ったんだけど、何度も頼みに来るから『じゃあ一緒に勉強しよっか』って話になって｣

塾と併用で土日はずっと一緒に缶詰め状態でさ。その後輩のこと、改めて尊敬したよ。

そう言って彼は手元のお菓子を掬って、パクリと食べる。そして、口を何度か動かしながら付属のスプーンを容器に上に置いた。

｢で、その子がここに受かって今度は何かお礼をさせて欲しいって言うものだから、軽い気持ちで『駄菓子とかでいいよ』って言ったら…これ｣

彼がこちらに向けてくるスマホの画面には袋いっぱいに詰まったお菓子があった。

ひとつならまだしも、複数の大きな袋に詰め込まれた駄菓子は中々に壮観だ。

何だか少しだけ、彼の後輩とやらの全容が明らかになった気がする。

｢随分…その、ユニークなお返しだね｣
｢だよね。物凄く嬉しいけど、消費に困ってるところなんだ｣

そういうことで。

そう続けた彼は自身のランチバックからもうひとつのお菓子を取り出して、私に差し出す。

｢おひとつ貰ってはくれませんか？｣
｢まさか…元から渡すつもりで、持ってきてた？｣
｢元々Aさんには何かお礼しなきゃなって思ってたんだ。一人になって落ち着ける場所、色々教えてもらったのに何も返せてなかったから｣

いつも通りの二人分以上の距離を、一歩詰められる。

｢…い、いただきます｣

それ以上詰められる前に、お菓子を受け取った。ただでさえ会話で切羽詰まっているのに距離感も詰められてしまっては、さすがに窒息してしまう。

恐る恐る受け取ったその袋は、果物のグミらしくカラフルな文字で彩られていた。
何だか見覚えがあるフォントだ。幼い頃よく買っていたのだろうか。

昔。昔ならば。

｢…あ｣
｢ん？｣
｢あっ、いや｣

ピアノ教室の隅にある椅子に座って、幼馴染と二人で食べてたグミ。

確かイチゴ味が全くイチゴの風味がなくて、ただ甘いだけだった記憶がある。