10.まずはコミュ障改善 ページ10
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大丈夫。
できるよ。
優しく腕を撫でた彼が私の目を見つめて真剣な表情を浮かべる。
Aの努力は僕が一番知ってるから。
自分の実力を出せばいいだけだ。
着慣れないドレスと辺りの暗闇で息が苦しい。
後ろに回った幼馴染の腕を掴んでやめて欲しいと声に出しても、彼にはその声が届かない。
私を呼び出す低くて大きなブザーが鳴った後、彼は私の背中を軽く押した。
一歩前に出ると彼は闇に消え、私は光の当たる舞台へと移動する。
舞台には大きなピアノと私。暗闇からは沢山の視線が降り注ぐ。
___目が怖い。初めてそう思った。
沢山の人が私の一挙一動を見ていて、中には固まる私に対して何か言っている人だっている。
全身が縄で縛られているように動かない。
___さ_、_A、さん!
何度も名前を呼ばれてようやく自分の意識が戻ってくる。焦って一礼をして、ピアノに向かおうとした瞬間
私は思いっきり、床へ倒れ込んだのだ。
***
「あ、Aさん」
「…知育菓子」
「うん。Aさんも食べる?」
「いや、えっと…遠慮しとく」
三人分の距離を置いて、コンクリートの上に腰を下ろす。
頭の中はクエスチョンマークが駆け巡っていた。
_____なぜ知育菓子。この昼間に。
彼は真剣な顔で手元の不思議な色のお菓子を混ぜていて、画像加工で顔だけを入れ替えたみたい。
…ここは、なぜ知育菓子を作っているのか聞くのがコミュニケーションとして正解なんだろうか。
ゴクンと喉がなって、私は少し乾いた口を開いた。
「あ、の」
「ん?」
「その知育菓子、買ってきたの?」
付属のスプーンを口に入れたまま顔をこちらに向けた彼は、少し目を丸めて固まった。
「変なこと、聞いた?」
「いやいや!Aさんが自分から話しかけてくるの、珍しいなって思って」
なんかあったの?そう言って少し近づいてくる彼に対して、私も小さく横にズレる。
話すのはいいとして、距離は絶対に保たなきゃ。
心臓どころか、脳まで緊張という名の縄で縛られる。
「別に、何も無いよ。でも、私も…その、色々反省すべき点が浮き彫りになったから。まずは、コミュ障を改善しなきゃいけないなと、思いまして…」
「おぉ。Aさんがそれだけ喋ってくれるの、初めてだ」
否定しようがないところが何とも悔しい。
私が肩をすぼめると、彼はいたずらっぽく笑った。
どうやら、完璧笑顔のバリエーションはまだまだあるらしい。
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ぴ(プロフ) - 展開がまだ分からないんですけどワクワクしてます〜!更新停止中?みたいなのでしばらく更新ないのかもしれないのですが、気長に待ってます😌😌😌 (7月1日 0時) (レス) @page14 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナナシノゴンベ | 作成日時:2023年3月29日 1時