０３既視感 ページ3
夏の帰り道に偶然見かけた。
真っ青な顔をして公園でぐったりしていた女。
その姿が一瞬あの人に重なった。
女は苦手だ。
でも気づいたら、声をかけていた。
真っ黒な髪に深紅の瞳を持つ女。
神様の最高傑作だと言われても
納得してしまいそうなほど整った顔立ち。
あの人…いや、あの兄弟とよく似ていた。
「お前…」
いや、そんなこと考えている場合じゃない。
顔色が良くない。この天気のせいだろう。
この女があの兄弟の血筋であることは間違いない。
俺様の勘がそう言っている。
このままにしておくのは良くないだろう。
とりあえずもっと日が当たらないところに
移動するべきだろう。ここではダメだ。
もう一度声をかけようとしたとき、
ベンチに座っていた女がふらっと倒れた。
「お、おい、大丈夫かよ！」
すぐに頭を支えたため、女がベンチに頭を打つことは避けられた。
しかし顔色が先程より酷くなっている。
これはあの人以上だ。
「…くそっ」
女の意識が完全にとんだ。
救急車を呼ぶか考えたが、以前同じような状況に遭遇した
際に止められたのを思い出した。
休めば良くなるから、と。
幸い女に息はある。
とりあえず向こうのベンチに移動して少しだけ様子を見よう。
女の鞄を持ちあげたとき、朔間Aと書かれているのが見えた。
そういえばそんな名前を去年、
あの人から聞いたことがあるようなないような。
女を日陰の多いベンチに移動させて俺様の鞄に
入っていたタオルを枕代わりにした。
これでまだ寝やすくなるだろう。
ついでに先程自分用に買っていた水を女の隣に置き、
隣のベンチに座った。
女は数時間で目を覚ました。
顔色がずいぶん良くなったように見える。
女はやはりよくあの兄弟と似ていた。
どこか目を奪われる。
「…」
あの兄弟のことを聞いてみようか、何回も悩んだ。
でも聞くのをやめた。
女は何か言いたげな顔をしていた。
「…気を付けて帰れよ」
もう会うことはないだろう。
「ありがとうございます
は？？？
にこっと笑った女…朔間Aに全身がぞわぞわした。
俺様はどうやら厄介な奴に声をかけてしまったらしい。
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作者名：りんごあめ | 作成日時：2023年8月31日 1時
